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第47話 察しの悪い男。

 「お前ッ、家に帰ったんじゃなかったのかよッ!!」 おもわず大きな声を出してしまうと、エントランスの無機質な壁に反響してさらに大声になって返ってくる。 「しっ、しーっ!今何時だと思ってるんだ。近所迷惑だろ。」 くちびるに人差し指をあてがうと正臣は云うが、自分の方が迷惑だっての! こんなに突然現れて、俺は気持ちを整える時間も無い。正臣の顔を見ただけで、ホッとした気持ちになってしまうなんて、そんな事おかしいのに.....。 「どこに居たんだよ、ミキさんに説明できるのか?まさか女の所なんて云うんじゃないだろうな!」 俺は正臣の胸に拳を当てると訊いた。 殴りたい気持ちをグッと堪えて、冷静に対処しなければと思う。こんな場所で話す事でもないんだけど、咄嗟に訊いてしまうと、正臣は笑った。 「あはは、どうして女のところに?.............ミキに何か云われた?」 「..........別に、何も云われてない。けど、うなされている時に女の名前呼んだって。」 ちょっとだけ俯きながら足元に目をやって訊いた。正臣の目は見る事が出来なくて。 「ハルミの部屋に行こうよ。こんな所じゃ話しも出来ない。」 「........お、おう、そうだな。」 正臣に云われるまま、俺は部屋へと向かう。エレベーターの中で二人きりになると、訊きたい事が口から零れそうで、ちょっとだけソワソワした。思わず足でリズムをとると、ドアが開いた瞬間廊下へと雪崩込む。 玄関に着くとポケットからカギを取り出すが、気が急いてうまく鍵穴に入らなくて.....。 正臣が横から手を出すと、俺のカギを取り上げて差し込んだ。 ゆっくりとドアを開ける。 と、俺の腕をグッと掴んで中に押し込んで来る。 「は?......」と驚きの声をあげるが、すぐに正臣に抱きすくめられてしまった俺は、直立不動の状態で成すすべもない。 玄関で、正臣の胸に頬を付けてじっとしているしかなかった。 「オレの事、どうして探さないんだよ!」 正臣の吐息が俺の頭を掠めていく。 どうしてって、そんなの当たり前じゃないか。 正臣を探す理由がない。俺は一週間、確かに置いてやって出て行ったのはコイツなんだから。 「約束は一週間だったろ。お前が勝手に来て勝手に出て行ったんだ。俺が頼んだ訳じゃない。」 そう云ったが、一旦ギュっと力を込めると、今度は少し身体を離して俺の顔を見た。 「ミキがお前を訪ねたって聞いて、実は焦った。」 「..........は?」 「だってオレのウソがバレちゃうだろ?!せっかく理由をこさえて此処に来たってのに。」 やっぱりウソだったんだ。 浮気がバレてって言うのはウソか。 「正臣の嘘つき。どんだけ自分はモテるって思われたいんだよ。呆れるな。」 五人とか八人とか、そんなに次から次に女が出来てたまるか。 昔は確かにそんな感じではあったけど、社会人になってまでそんなんじゃどうしようもない。 「モテるさ。その気になれば、な。」 口元をあげて偉そうに云うが、俺がムカついているのは全く気にせず、ウソまでついてどうして俺の所に来たのかが分からなかった。 「じゃあ、モテるお前が今居るところは何処なんだよ。スーツケースを持って来てないって事は、何処かに置いてあるからだろ?女の所か?!」 少しだけ正臣の顔を見上げると、俺は真剣な眼差しで訊く。 もう嘘は御免だ。俺にウソをいって何の得になるのか分からない。 それに、こうやって近くに居るだけで、俺の心臓は熱く跳ね上がってしまいそうで。 早く正臣の言葉を訊いてスッキリしたかった。 「.............お前はなんにも分かってないんだな~」 ポツリとこぼすと、今度は口をへの字にして眉根を下げる。 まるで俺が変な事を云っているみたいな口ぶりで、どっちが呆れているのか分からなくなった。

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