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第55話 家族の意味。
「これならお金貰ってもいいんじゃない?時間もかからずに、ちゃんとスタイル作れているし。」
「ホントですか?!」
「うん、充分だろう。今度フリーのお客さん来たら入らせてもらえると思うよ。」
「ありがとうございます!」
大原さんの言葉で、一気に俺のテンションも上がる。
兎に角お客さんに接する事が一番だし、気に入ってもらえたら嬉しい。子供のカットもそれなりに大変だけど、やっぱりスタイルを作るのが好きだから、そこは大人のお客さんがいいんだよな。
「ハルミくんセンスいいと思うよ。ハサミ使いで分かるっていうか、器用なんだろうな。あと、テンポもいいし。ぎこちない動きでカットされると心配になっちゃうからさー。」
そう云ってチハヤさんが俺の顔を見る。
「あ、有難うございます。」
なんだか背中がくすぐったいっていうか....。やっぱり俺、褒められるのは好き。
「なんかお腹空いたよね~。ちょっと上のカフェでサンドイッチでも作ってもらおうかな。」
大原さんはそう云うと財布をポケットに入れて席を離れる。
「あ、俺も払います。」
慌ててバッグを開けようとすると「いいって、チハヤさんのカット代。僕のおごりにするんだから。」と云って笑った。
大原さんは俺が「すみません」と云った言葉も聞かないうちにさっさとドアから出て行く。
「........思いたったら即行動、だからな、アイツ。」
ソファーに腰を降ろすと千早さんが云う。よくある事って感じで、目の前から消えてしまう事に慣れているようだった。
「あの、やっぱり付き合っているんですよね?!二人は。」
俺がテーブルの上の雑誌を片付けると訊いた。でも、チハヤさんからの返事は無くて。
「ぁ、すみません変な詮索しちゃって。俺には関係ないのに.....。」
バツが悪くてそう謝った。すると、チハヤさんは身体を少し前のめりにして膝に手を乗せると「なんだろう......、家族、みたいなもんかな?!」という。
「え?家族?!」
「そう、........変?」
「あ、....いや、変ていうか......」
今、一番気になるキーワードをチハヤさんの口から聞くとは思わなくて、俺は目を剥いてしまう。
「おーはらとの出会いはちょっと変わってて。.....なんだろう........、やっぱり縁があったんだろうか。気づいたらこうなってた。そして今は親姉弟よりも深い所で繋がっている。なーんて、思ってるのは内緒な!アイツ調子に乗るからさ。」
チハヤさんが眉を下げて笑うから、ちょっと切ない表情に見えた。軽い気持ちで付き合っているとか訊いてはマズかったかな。
「オレは最愛の男を亡くしているんだ。もう10年ぐらい前になるけど........。おーはらはオレのみっともない姿も見ているけど、離れずにいてくれる。そこは申し訳ないが感謝もしているんだ。」
チハヤさんにそんな過去があるなんて知らなかった。
それに、大原さんにもそんな過去が........。
「家族って、どういう意味でしょう。結婚するわけじゃないのに、同じ家で暮らすって事でしょうか?」
正臣が云った「家族」の意味も、俺にはピンと来なくて分からないまま。同じ様に、チハヤさんが大原さんに抱く気持ちを家族に対する様なものというのなら訊いてみたい。
「........それは、難しいけど。.......何があっても縁が切れない関係、って感じかな?!オレにとってのおーはらはそういう相手だから。」
「縁が切れない関係?!...........」
そう口ずさむと、じっと自分の掌を眺める。
この手に繋ぎとめる事が出来るなら、それはそれでいいのかな。家族になるって、正臣はどんな気持ちで云ったんだろうか。
ドアの向こうからパタパタと足音が聞こえると、俺は気を取り直して立ち上がる。
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