62 / 119

第62話 まずい雰囲気??

 何度も同じところを行ったり来たりしている俺の頭がまどろっこしくて、今夜は斎藤の誘いに乗って酒を飲みにやって来た。 本当に、コイツだけは相変わらずの距離をおいて俺に近寄ってくる。高校からそうで、特別親しいって訳ではなかったが顔を見ればとりとめのない話で時間が過ぎて行った。 「営業の方はどう?!忙しいの?」 俺が運ばれてきたビールに口を付けると訊いてみる。グラスはしっかり手に持ったまま、目だけを斎藤の方に向けた。 「ああ、忙しい。なんかさー、大学の就活していた頃が懐かしいよ。ワクワクとドキドキがあったのに、今は現実見せつけられて超憂鬱。」 「そう?就活だって大変な思いしてたんじゃないのか?内定貰うまで不安でさぁ。」 俺は美容の専門学校へ行ったから、斎藤たちとは違う学生生活を送っていたが、お店に来る大学生が大変そうに話しているのを聞いていた。 「あれだよな、おれたちの仲間の中ではハルヨシだけが専門行ったじゃん。だからか、ちょっと距離置くようになったの。」 「.........ああ、そうだな。」 斎藤にはそう答えたが、本当は正臣と出会うのが辛かったからだ。 「そういえば正臣、まだ家に帰ってないらしい。ハルヨシのところに連絡あったか?」 「.............いや、...........無いな。」 「そうか、...........アイツ何考えてんだろうな。モテる男を演じたり、ちょっと変わってんな。」 「.........正臣の話はいいだろ?!放っておけよ。」 「ああ、そうだな。なる様にしかならないか。」 斎藤はビールをテーブルに置くと、今度は唐揚げに箸をつける。正臣の事を二人で話しても仕方がないし、実際、斎藤はそこまで正臣と近しいわけでは無さそうで。高校時代の仲の良かったダチ、って立ち位置なんだろうな。 まさか俺と正臣が関係を持っているなんて、思ってもみないだろう。 久しぶりにサラリーマンの事情やら、彼女の報告やらを聞かされた俺は、次の日が自分の定休日という事でちょっと飲み過ぎてしまった。トイレに行こうと立ち上がった時、足がもつれて初めて酔っていると自覚する。 「ハルヨシ、大丈夫?お前酒弱かったっけ?!」 なんとかトイレから戻ってきた俺を心配そうに見つめると、斎藤は訊いてくれた。 「ああ、大丈夫だよ。ちょっと油断しただけ。酒は強くはないけどな。あはは、」 前に酔いつぶれた事のある俺は、反省した筈なのに...............。友人と一緒だと油断してしまった。 そろそろ帰ろうか、と云われて二人で会計を済ませると店の外へと出た。 繁華街の一角を抜けると、大道りを歩いて行く。 斎藤がバスに乗るというので、俺もバス停まで見送りをしようと付いて行った。 街路樹の下を歩くと、照明に照らされた斎藤が俺の方を見る。 「ハルヨシって、身長もう少し低かったら女の子みたいだな。云われるだろ?!」 「え?」 ゲイバーでは良く云われる言葉。可愛いと云われるのは嬉しいけど............、女の子になりたい訳じゃないからなー。 斎藤には何も話していないから、このまま返事はせずにいようと思った。 バス停に着くと、時間を確かめてみる。 「あ、あのバスだ。」 斎藤は向こうからやって来たバスを見つけると「あれだ。」といった。自分の乗るバスを確認すると俺に「じゃあな、」といい先に降りてくる乗客を待つ。 と、ステップを降りてくる人に目がいって驚いた。 「あ、正臣じゃん!」 斎藤もすぐに気づくと声を掛ける。少しだけ距離があったが、近寄って行くと「元気か?最近どうよ、お前何やってんの?」と肩を叩きながら訊いている。 「別に、元気だよ。仕事の帰りだけど......。」 斎藤の手を少し避けると、正臣が俺の顔をチラッと見ながら云った。 「おい、もう帰るんだろ?!バス、出ちゃうぞ。」 「あ、やべえ、じゃあ、またな?!バイバイ。」 「おう、.....バイバイ。」 斎藤が乗り込むとすぐにバスのドアは閉められて、俺と正臣は暫く目の前を通り過ぎる斎藤に目をやっていた。 軽く手を上げて別れを確認すると、俺たち二人は顔を見合わせる。

ともだちにシェアしよう!