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第71話 結局こうなるんだ。

 バスに乗り込んで15分。 手に持った寿司の折詰を膝に乗せて、ようやくシートに座れば窓を流れる景色に目をやった。 街路樹の奥で、きらびやかに光る電飾の色が眩しくて。ビルに入っている飲食店やカラオケの看板が、ただの走馬灯の様に視界の隅に消えてゆく。 顔は外に向けながらも、ポケットに入れたスマフォが鳴らないかと気に掛かると、さっき送った正臣へのメールの返信が来るような気がして、そのまま握り絞めていた。 『オーナーに呼ばれて出掛けている。9時半には家に着くと思うから電話する。』 そう送ったのが20分前。 仕事帰りのサラリーマンや塾帰りだろうか、小さな子供の姿まで目にすると、その中でこの膝の折詰はなんだか恥ずかしいな、と思ってしまった。飲み帰りの酔っ払いのお父さんが、こういうのを手に提げて歩く姿が時々テレビに映ると、ダサいなー、なんて思っていたのに.............。 大原さんがふたつも寄越すからそのまま貰ってしまったが、考えてみたら俺の分だけでいいのに。どうしてふたつも寄越したんだろう。 - - -  一昨日、正臣と出会ったバス停で降りると、俺はマンションの方角に足を運ぶ。 まさかホテルを訊ねる訳にもいかないし、メールの返信も無いままだったから、俺からの電話を待ってくれていると思った。 とはいっても、何を語る訳でもない。 自分の置かれた立場を再度確認するしか出来ないのだろうな。と、ぼんやり考えながらマンションの前まで来る。 「おかえり。」 ふと背後で声がして、顔だけを後ろにやった。 声の主は、やはり正臣だ。低音だけど、まろやかな含みのある声は、どんなに遠く離れていても聞き取れる気がする。 「.....、電話するって、メールしたのに。」 そう云うと、正臣は俺の背中を少し強めに押しながら「声も聴きたいけど、顔も見たい場合はこうするしかないよな。どのみちハルミの声聞いたら会いたくなるに決まってる。」といった。 - ったく........そういう事、よく云えるな。 「で、オーナーの話はカタがついたのか?なんか怒られた?」 どういう訳だかちょっと嬉しそうに訊くもんだから、俺はムッとしながら「怒られる事しねぇし!」と睨んだ。 「あれ、なんで寿司なんか?」 急に、手元の折詰を見ると声をあげるから、「もらったんだよ。食べろって云われて.....。」と呟いた。 すると、「ふたつあるじゃん。気が利くねぇ、オレ飯食ってないし。」と云ってそれを取り上げようとする。 「あ、コラ、.....やるなんて言ってない。」 そう云ったが、既にひとつは正臣の手の中にあった。 ___はぁ、なんか、さっきまで俺は暗い気分になっていたんじゃなかったっけ?! こんな、普通に昔通りのふざけた会話が出来るなんて、思ってもみなかった。 何を語ろうか思案していたっていうのに.........。 気づけば、ドアノブにさしたカギを回しドアを開けると、ごく当たり前の様に部屋の中へ正臣を通していた。

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