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第72話 頭ン中覗いてやろうか?

 キッチンに面したカウンターテーブルに二人並ぶと、頂いたお寿司をそれぞれ摘まむ。 マグカップにティーパックを入れて、それを口にすると正臣は云った。 「ホント、ハルミのインテリアって簡素過ぎるよな。湯呑み茶碗もないだなんてさ。もう少しこう、生活感ある食器だけでも揃えたらいいのに。」 俺はその言葉に、「そんな趣味はない。あ、でもコーヒーメーカーは良いヤツだから。」というが、確かに珈琲カップさえ何でもいいとは思っていた。生活感とかオシャレとか、髪の毛以外にはあんまり興味が無かったのかもしれない。それに、家庭人の正臣はミキさんの趣味で素敵な食器やインテリアに囲まれているんだろうが、俺は独りで、ここに人が来る事の方が少ないんだ。 「今度、オレが食器揃えてやるよ。」 「............え?」 正臣が独り言の様に云ったが、再度聞き直す俺に顔を向けると、ちょっとだけ照れ笑いをする。 その顔は今まで見た事のない様な、こっちまで恥ずかしくなる様な表情だった。 「...........別に、食器なんか何だっていいよ。使えたらいいんだから..............」 俺は、目の前のマグカップに手を伸ばすと云う。 「.........あのさ、.........オレ、ここに住んだらダメかな?!」 「え?」 おもわず正臣の顔をじっと見つめる。 突然、何を云っているんだろう。自分が既婚者だという事を忘れているのか? 「バカな.....。無理に決まってんだろ?!ホテル住まいは知らないけど、別の人の家で暮らすなんて聞いた事がない。」 相変わらずの正臣の発想というか、わがままぶりは俺を呆れさせる。 家族を守りたいと健気な事を言ったかと思えば、ミキさんを蔑ろにして俺とここで暮らすとか。本当に頭の中、覗いてみたくなる。 「ミキには言おうと思う、ハルミの事。その上でミキや涼の事は家族として支えたいと思うし、せめて涼が高校を卒業するまではオレが面倒を見るつもりだと伝えたい。」 真剣な眼差しで俺に云うが、それに対しての俺の感想は云いたくなかった。 やっぱり自分の立場は変わらないままか。涼くんが高校を卒業って.........まだ17年も先の話。俺はその頃どうしているだろう。そんな先の事は全く想像すら出来ない。 「ソレ食ったら帰れよ。.........顔も見たし声も聴けたろ?!もう充分なんじゃないのか?」 そう云うと、自分の食べ終えたモノを片付けようと立ち上がった。 「おい、なんだよ。何か気に障る事云った?」 「別に。気に障る事なんかないよ。ただ、俺は此処から居なくなるかもしれないから。正臣が此処に住むのは無理な話なんだ。」 「ぇえっ?!ナニそれ。どういう事だよ、ハルミが居なくなるって何処へ行く気?」 「外国。仕事で、台湾へ行くことになったから。取り敢えずはひと月ぐらいだけど、分からないな。」 「はあッ??うっそ、台湾で仕事って.....美容師の?」 「うん、オーナーがあっちに店を出すらしい。で、俺と大原さんが行くことになった。」 「....................マジか!なんで..........ハルミが?」 「そんなの知らない。オーナーの気まぐれかもしれないけど、行けと云われたら行くしかない。」 「........................」 正臣の言葉が途絶えた。 首は横に傾いたまま、じっと俺の顔を見ている。 でも、俺は動じずに正臣の顔を見つめ返した。

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