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第74話 疲れたなぁ...

 「なぁ~んか、浮かない顔だねぇ。昨夜はカレと楽しいひと時を過ごしたんじゃないの?寿司まで付けたのに、その顔はいただけないなぁ。」 店に着くと、俺の顔を見るなり大原さんに云われる。 人前で『カレ』とか云わないで欲しいんだけど............。 「おはようございます。浮かない顔ですみません。お寿司は美味しくいただきました。」 そう云って奥のロッカーに荷物を入れるが、大原さんが寿司の折詰をふたつ寄越した意味が分かった。 あの一瞬で、俺が正臣と何かある事を感じて出会う想定までしてくれたって事か。ホントに気が利きすぎるんだ大原さんは。 「ひょっとして昨日の話、云っちゃった?それで険悪ムードになったとか。」 「別に......。」 スタッフルームでは、出勤してきた店長が缶コーヒーを啜りながら洋介くんと話をしているから、大きな声では話せない。 俺は自分がゲイだって事を公言していないし、特に知られて困る事もないんだろうけれど、変に意識されるのは面倒だった。 「今度ゆっくり聞かせてよ。あのコとの関係。」 それだけを云うと、さっさと店内に行ってしまう。 オーナーが言ってた、俺と大原さんは見た目は似ているけど、真逆だって。 本当にその通りだと思う。いつもあっけらかんとしていて、他のスタッフとも群れる事のない大原さんは、それでいて心配りとか出来る人だった。そのくせ、時折見せる小悪魔的な顔は、人を食ったような妖艶な雰囲気も醸し出す。 大原さんに正臣との関係を詳しく話すのは怖い気もするが、それでもこのモヤモヤが晴れる様な事を云ってくれるかも。なんて、どこかで期待しているんだろうか。 - - -  着る服も徐々に軽くなると、ヘアスタイルを変えたくなる人も多い様で、この日は朝からお客さんが途切れることなく繋がっていた。 そのおかげか、俺もカットに入らせてもらえて、少しづつ慣れてきた様にも感じる。 気がつけばすっかり陽は落ちて、昼食をとる事も出来なかった事をキューっと鳴った腹の虫が教えてくれた。 「今日はもう、このままご飯抜きだな。取り合えず一服したい人は行って来て。」 店長にそう云われて、大原さんと二人スタッフルームに入ると、自販機で買ってきたコーヒーを開けた。 パイプ椅子に足を伸ばして座る大原さんは、俺の事をチラチラと見る。 「あ、コーヒーいりました?買ってきましょうか?!」 そう云うと俺は立ち上がる。が、すぐに大原さんの首が左右にフラれると、テーブルに腕を組んで座ったままおでこを付ける格好になった。 立ちっぱなしで疲れているんだろう。それに、お昼も食べる時間が取れなくて、ひもじい思いは一緒だ。 何か話かけようと思ったが、休息の邪魔をしてはいけないと、口をつぐんだ。

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