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第76話 頼れる男。

- - -   暫く忙しい日が続くと、嬉しい事にカットに入らせてもらえる機会も増えて、俺は俄然張り切った。 少々の疲れは、日々のスキルアップの賜物と思って頑張る事も出来たが、昼食の時間が本当に不規則になってくると、体調も崩す気がする。朝から胃の辺りがキリキリと痛んで、後でドラッグストアに行って胃薬を買ってこようと思った矢先。シャンプーに入っている途中でまたもや掴まれる様に痛み出し、手で押さえる事も出来なくて眉間にシワを寄せて堪えていた。 「洋介くん、ハルヨシくんと交代してあげて。」 「はあ~い」 大原さんは俺の様子に気付いたのか、洋介くんにそう云ってくれて、交代してもらうとスタッフルームへと行った。 歩きながら掌で撫でる様にするが、一向に治まらない。仕方がないので椅子に座ってテーブルに頭を置くとじっとしていた。 「どうした?具合悪そうだけど.....」 店長が気にかけてくれて、俺の隣に来ると肩に手を置く。 「少し胃が痛くて.....。でも、暫くじっとしていたら治ると思います。」 俺は顔を向けると云ったが、店長は心配そうにしている。 「僕が連れて帰りましょうか?家近いし、うちの向かいに病院あるから看て貰って休ませますけど。」 大原さんがスタッフルームへ来ると店長に云ってくれるが、「いや、悪いですから。俺ひとりで帰れます。」と云って断ろうとした。 忙しいのに迷惑かけたら申し訳ない。俺がもう少し我慢すればなんとか治まると思って、椅子から立ち上がろうとしたが更に激痛が走って又椅子に腰を降ろしてしまう。 「ジュンくん、お願いしてもいい?ハルヨシくんひとりで帰したら病院行かなさそうだもんな。」 「そう、絶対寝てるだけで治るって思ってそう。僕がちゃんと病院へ連れて行くんで。」 「じゃあお願い。........ハルヨシくん、ちゃんと薬飲んで寝てるようにね。」 そう云うと、店長はまた店の中へと戻って行った。 「..........すみません」 俺が大原さんに謝ると、「気にしなくていいって。便乗して休めるし............。」という。 ちょっとだけ気が抜けると、俺はロッカーから荷物を出して大原さんに付いて行く。 前に一度行った事のある大原さんのマンションの前には、確かにクリニックがあった気がする。 どうせ胃薬を買おうと思っていたし、病院で看て貰うのもいいかもしれないと、痛む腹を押さえながら歩いて行く。 「ちょっと忙しすぎだよね。最近お客さん増えた気がする。それに、ハルヨシくんの場合はシャンプーも受けちゃうから余計時間がないんだよ。もっと洋介くんを使って自分のペースでやらないと、ホントに身体壊すから。」 大原さんのいう事は最もで。 未だに自分のペースがつかめなくて、がむしゃらにカットをさせて貰うけど、シャンプーやブローもフォローに入ってしまうんだ。 洋介くんともう一人、アシスタントが居るのに........。 「店長は顧客が多いから次々にこなしていくけどさ、流すのは洋介くんに任せないとダメ。ハルヨシくんがやっちゃってたら洋介くんの手が空いちゃうから」 「.......はぁ」 気の無い返事を帰すしか出来ない俺は、大原さんに云われないと分からないままだった。 ちゃんと周りを見ていて感心する。大原さんがあそこで助け舟を出してくれなかったら、俺はきっと倒れるまで我慢してシャンプーしていたと思う。 「ありがとうございます。」 小さな声でお礼を云うと、「ヤだな~、それより、着いたよ。消化器系の病院で良かったね。」と云って向かいの病院を指差した。 - - -  結局、不規則な食事がたたって胃腸が弱っているらしく、胃酸過多とか云われた俺は病院の薬をもらって帰る事になった。 でも、大原さんがどうしても自分の部屋に来いと云うので、仕方なくお邪魔する事にした。 面倒見がいいのか、お節介なのか..................。 ま、気が利く大原さんの言葉を有難く受けようと思う。 部屋に通されると、何故かお粥を作ってくれて目の前に置かれたから頂かない訳にもいかず、レンゲで掬うと一口頬張ってみた。 あっさりとした玉子がゆ。口に入れたらなんだかホッとした。 食べる事にあまり興味がない俺は、腹が満たされれば何でもいいと思っていた。でも、このお粥は大原さんの気持ちが込もっていそうで、ちゃんと自分の体調管理もしなきゃダメなんだと反省する。 「美味しいです」 そう云うと、「でしょ?!コレ、何度もチハヤさんに作ってっからね!あの人忙しいと食べるの忘れるからさあ。ハルヨシくんみたいに胃が悪くなるんだよね。」と云って顔を綻ばせた。 .............大原さんの、チハヤさんに対する想いが俺には羨ましくもあり、好きな人を全力で支えたいと思える事は素敵な事だと思った。俺はそんな風に正臣の事を支えられるんだろうか。

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