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第80話 正臣の告白。
互いに切ない顔で見合うとじっと動かないでいたが、やがて正臣が下を向きうな垂れると、俺も目を伏せてしまう。
______ 疲れと痛みと、言葉では言い表せない感情を自分の身体に閉じ込めると、床に倒れ込んだ俺。
慌ててかけよると、「大丈夫か?!」と言って正臣が俺に手を差し出す。
その手を取りたかったが、俺は拳をグッと握りしめたまま床に座っていた。ここで触れたら俺は.............
「どうして来たんだよ。あれから何も音沙汰が無いから、もうここへは来ないと思ってたのに。」
俺が正臣に云うが、差し伸べた手を引くと正臣も床に腰を降ろす。
「.......ミキに話すって言ったろ?!あれから一回家に戻った。」
「へ、ぇ.........。それで?話したのか、俺の事。」
「....................、それは..............」
答えはなんとなく分かっていた。正臣の口から自分が男の俺を好きだとか付き合いたいだとか言える筈が無いんだ。
俺だって、自分がゲイだって事は友人にも親にも云えずにいる。告白するって事がどれだけのリスクを背負うか、考えただけでゾッとするよ。それを正臣が簡単に云える筈がない。
「云えなかったんだな。そりゃあそうだろ、俺だって誰にも話してないんだ。」
俺は、云えなかった事を攻めるつもりは無い。でも、ここまで来たら俺たち二人だけの問題ではなくなる。
ミキさんと涼くんを捨てる覚悟で俺と一緒に暮らしたいって言うのなら、それはそれで考えるけど.......。
きっと正臣は出来ないだろう。
「オレは、ミキが好きな男の子供を産みたいって言った時、叶わぬ恋をしていた自分の代りに幸せになって欲しいと思ったんだ。オレは一生ハルミに心を残したまま過ごすんだろうと思って、それならミキと子供の為に父親役をやろうと思った。」
床に置いた手を握り締めて、正臣はそう云った。
「そんな重大な選択、よくしたもんだよ。血のつながりの無い子供を育てるって、俺は理解に苦しむね。正臣がミキさんの事を愛しているんなら分かるけど.................。」
愛している.............、そう言ってしまって、自分が傷つくのが分かる。
その愛情をどうして俺だけに向けてくれなかったんだろうと。
俺がゲイだと分かって、男の自分を受け入れてもらえるかもと思ったのに、既に結婚して子供も生まれた後で分かったなんて.......。
タイミングが悪すぎる。俺と正臣はすれ違う運命だったのかもしれない。
そう思ったら、納得する事も出来る。巡り巡って今頃好きだの一緒に居たいだの言っても、俺たちはきっと一緒には居られない運命なんだ。
「愛は..............よく分からない。オレはただ二人を自分の代りに幸せにしようと思っただけ。それが将来どうなるのか、全く考えていなかった。ハルミにオレの気持ちが伝わらないなら、ずっと独身でいるつもりだったし....。」
「ホント、バカだよ。.........バカ過ぎて俺の頭じゃ理解できない。」
目の前で、大きな身体を丸めた男の姿を見ると、もう何も言えなくなる。
ミキさんは感謝していたけど、その後の自分がどんな風になるのか想像はしなかったんだろうか?
正臣の子供じゃない息子を家族ゴッコの様に育てるつもりだったのか。
「.........ハルミも一緒に来てくれよ。オレ、ちゃんと話すから。ミキにハルミと一緒に居たいっていうから.........」
正臣の顔がみるみる歪んでくると、泣きそうな顔になった。
「ずるいよ、そんな顔。............どうして俺が..........?」
_____ずるいよ
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