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第89話 腰のTATOO
_____どうしよう、どうしよう_____
困った俺は、テーブルに突っ伏したままの大原さんを見降ろすと頭を抱えた。
こんな時、正臣ならひょいと持ち上げてベッドまで運んでくれるのかもしれない。
でも、非力な俺が大原さんの腕を肩にかけて立たせようとしても、重みに耐えかねて崩れてしまいそうで。
このまま取り敢えずは大人しく突っ伏していて欲しいと願う。
チハヤさんの携番も知らないし、店の名刺も貰っていない俺は兎に角スマフォで検索してみる事にした。
店に電話してなんとかしてもらおうと探していると.....
「あー―――っつい!!」
突然、大原さんがムクっと顔を上げて叫んだかと思ったら、立ち上がって着ている服をどんどん脱ぎだしてしまう。
「あっ!!!大原さんッ_____」
慌てる俺を無視して、ついには穿いている下着に手を掛けた。
ボクサーパンツを降ろし、そのまま足の先から蹴飛ばす様に脱いだ大原さんの腰を見て、思わず俺の視線は釘付けになった。
真っ赤な花のタトゥー。バラではない。何処かで見る花だけど名前が出て来なくて......。
大原さんは全く気にする様子もなく、ふらつきながらベッドに行くと布団に潜り込んでしまう。
呆気にとられたが、すっかり気持ちよさそうに目を閉じる大原さんに、俺は何も言えなくなった。
_____あ~あ、どうすんだ、コレ
暫くは途方に暮れていたけれど、寝息をたてて寝ている顔を見ていても仕方がない。
俺はシャワーを浴びようと着替えを持って浴室へと行った。
仕事の面では本当に尊敬できる人だけど、こうやって個人的に付き合えるかと訊かれたらちょっと考えてしまうんだよな.....。
大原さんは厳しい事を云うけれど、基本的には優しいし気が利くし、いい先輩。
けど、時々驚かされる事もあって.....。
今日みたいに酔っぱらった姿は初めて見た。まあ、あんまり店の連中と飲みに行くことは少ないけど。
.............チハヤさんはこんな姿も知ってるって事だよな。
大人しく朝まで寝ていてくれたら、なんとかなるか。
俺はシャワーを終えると寝る準備をする。
取り敢えず二人で寝るしかないな、と思い、枕をもう一つ出してくると隣に置いたが、なんとなくソワソワと落ち着かない。
_______変な気起こさないだろうな_____
ちょっと心配しつつ、布団をめくって中へ入る。と、その時大原さんの素肌を間近に見る事になって、少しだけドキリとした。
色白で滑らかな肌は、体毛が薄くて触ったら気持ちよさそうで。俺だっていつもは抱かれる側の男だけど、こんなに綺麗な肌なら触ってみたくもなる。
足を伸ばすとふくらはぎの辺りが触れて、なんとも言い難い気持ちになった。
_____大原さんはいつも全裸で寝るんだろうか_____
そんな事がふと気に掛かってひとりでモヤモヤするが、ギュッと目を閉じると俺は寝る努力をする。
どうか明日の朝まで何も起こりませんように.........
胸の前で手を合わせると、そう願う俺だった。
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