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第94話 大原さんのおかげ?
「..............で、明日は?」
正臣の顔をチラリと見ながら訊いてみる。
「明日は代休で...........。だから今夜のうちに戻りたかったんだけど。泊めて貰うつもりだったし.........。」
はにかむ様に視線を下げると云う。
大原さんの事が無かったら、俺は気安く受け入れていたんだろうか。
胸の中に何か燻る物を溜めたまま。それを消化できずにどうしていいのか分からなかった。でも、やっと目の前がぼんやりだけど明るくなった気がする。
「なら、今夜は遅いし泊ればいいさ。その代わり、明日はちゃんと家に戻る事。」
「おお、分かった。ちゃんと話して来る。」
正臣の鞄が玄関に置き去りだったので、俺が取りに行く。その後ろを付いてくると、俺の肩に手を置いた正臣がギュっと力を入れた。ほんの一瞬、たったそれだけの事だったのに、妙に安心する俺がいた。
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翌日、店に着いた俺が目にしたのは、瞼を腫らして色付きの伊達めがねをかけている大原さんの顔。
店長に「ジュンくん、飲み過ぎは良くないよー。せっかくのイケメンが台無しだよ。」と、笑われている。
少しタレ気味の大原さんのパッチリ二重は、今朝は重そうだった。
「おはようございます。大丈夫ですか?」
俺は大原さんの背中越しに声を掛けると訊いてみる。
「............あんな時間に歩いて帰ったんだよ?!なんだか眠れなくなっちゃってさ、またビール飲んじゃった。」
「え!マジですか。そりゃあ瞼も腫れますって。」
ちょっとだけ申し訳ない気持ちではあったが、あんな時間にビールなんか飲んだら腫れるよな、と思った。
「洋介く~ん、冷え〇タ持って来てー」
奥の休憩室に居る洋介くんを呼ぶと、大原さんはメガネを頭の上にずらしながら叫ぶ。
「あ~~、ありませ~ん。買ってきましょうか?」
洋介くんはそう言ったが、「いい~。僕が後で買って来るよ。」と云うと鏡に映る自分の顔を眺めた。
俺の周りに人が居なくなったのを確かめた大原さんは、「あの後、修羅場だった?」と、少しニヤケながら訊いて来る。
「ん~~、ちょっと近いけど...................。逆に仲良くなった気がします。」
そう云うと首を傾げて微笑んだ。
「あ、そう。..........なぁ~んだ、つまんないな。」
「ちょっと大原さん!楽しんでませんか?やめて下さいよ?!」
大原さんの顔を睨むと云ったが、この人は俺に親切なようで結構弄んで楽しんでいる気がするから。
「........ハハッ、でもさ、叩くってのは愛の証でもあるよ。ちょっと羨ましくもある。僕もチハヤさんにペシッて叩かれたいな。」
「そんな......。やめた方がいいですって。変な事しないで下さいね。」
「分かってるよ~、真面目ちゃんなんだからー」
そう云うと、大原さんは色付きの伊達メガネを掛け直し、首をぐるぐる回しながら店の中に入って行った。
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