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第95話 新居って...?!
あれから暫くは、ミキさんと涼くんのもとへ戻っていた正臣だったが、引っ越し先の賃貸マンションを契約する為に何故か俺も呼ばれてしまい、夜待ち合わせをする事になった。
「ごめん、遅くなった」
待ち合わせの10分遅れで不動産屋に着いた俺が、正臣に謝ると打ち合わせをしている隣に座る。
「ああ、いいよ。」と、軽く言った正臣だが、話し相手の不動産屋は俺の顔を見るとキョトンとした表情で迎えてくれた。
なんだろう、このなんとも言えない感じは...。
「ぇえーっと、ご契約の物件は2LDKでしたよね?ひとり暮らし............ではないのでしょうか?」
ちょっと口をもごもごさせながらそう訊くと、俺の顔を見る。
「ああ、ひとりではなくて、いずれコイツが越してくるんで。二人暮らしになる予定です。」
「え?」
いきなりの話で驚きを隠せない。俺はそんな話聞いた事もない。
俺のマンションへ転がり込まれても困るけど、二人で同居って。
しかも2LDK?
「.........正臣、俺は...」
「あ、いいんだ。急がなくても。...........いずれって事で。」
「................」
腰掛けた尻がなんだか落ち着かない。
隣で平然と話を進める正臣に、なんと声を掛けたらいいのか分からない。
ずっと傍に居るとは言ったが.......。
「では、契約成立という事で。」
「はい、お願いします。」
俺がついてものの数分で、正臣の新居の契約と俺がいつかソコへ越すという事が決まってしまった。
呆然と契約のやり取りを聞くしかない俺は、正臣が契約金として渡した札束を見てやっと我にかえる。
敷金礼金、それに手数料と前家賃分の数十万円というお金を目にすると、ハッとして自分が何も支払いを用意できていない事に気付く。
「正臣、.............俺、そんな金無いけど。」
不動産屋が、契約金を仕舞いに奥へ行ったのを見計らって小声で囁いた。
「......ああ、そんなのいいって。オレが決めて引っ越しするんだし、ハルミに金を出してもらうなんて思ってないから。それに、当分は別々になっちゃうだろ?」
「そう、だな........。」
なんだかすごく変な感じ。
なんの為に俺は此処へ呼ばれたんだろ。
でも、すぐに不動産屋が書類とカギを手にして戻って来ると、その答えが分かった。
「もう、今日からでも住めるんですよね?」
正臣がそう訊くと、不動産屋の人が「もちろんです。すぐに電気と水道ガスの手配が出来れば。まあ、引っ越しをこれからされるには暗くなっていますが。」と言って苦笑いをした。
「ハハハ、流石に引っ越しは来週になりますが。ありがとうございました。」
「はい、こちらこそ有難うございます。何かありましたらいつでもご連絡ください。」
俺と正臣が二人で不動産屋を後にすると、手の中のカギを見せて正臣が云う。
「今から見に行こう。絶対気に入るとは思うけどさ、ハルミに早く見せたいんだ。」
そう言う正臣の表情が和らいでいて、俺もなんだか嬉しくなった。
勝手に俺との同居を決めてしまった事には驚くが、いつまでも一緒に居る事を前提に考えてくれたんだと思ったら、恥ずかしい様な嬉しいような.....。
新たなマンションは、意外に俺のマンションからも近かった。
さすがに徒歩では無理があるけれど、多分自転車かバイクなら全然平気だと思う。
外観は少し年季が入っていそうで、マンションといっても4階建てのレンガ色の物件。
ワンフロアに5世帯が入っているらしい。
2階の真ん中の部屋が正臣の契約した部屋で、「どうぞ。」と云うとカギを開けてくれる。
もちろん部屋の中は真っ暗で、外の灯りが漏れてくるからうっすらとは見えるが、俺は急に笑いが込み上がって来た。
「アハハハ、正臣、真っ暗じゃん!俺に見せたいって、.........見えねえし。ハハハ」
「ははは、ホント。全く見えねえ!」
スマフォのライトで照らしながら、二人して大笑いをするとその場にしゃがみ込んだ。
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