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第102話 いったい何?
相変わらず目の前に高く積んだ皿を避けると、正臣は向かい合って座る斎藤の皿に『がり』を乗せる。
「おい、そんなに乗っけるなよ、オレ、ガリはそんなに好きじゃないんだから。」
そう云って正臣の手を押し返そうとした。
がりの乗った皿は、行き場を失い真ん中にポツンと置かれたまま。
「じゃあ、オレが食べるよ。」といい、正臣は箸を伸ばす。
いつもの事だけど、コイツの胃袋はどうなっているのかと思う程、寿司が好きなだけなのかもしれないが、俺の3倍は食っていた。
正臣の隣に座っている俺は、斎藤の顔をチラッと見ては言葉を選んで話かけようとする。が、そんな俺の気も知らずに、正臣はさっきから斎藤にちょっかいを掛けてばかり。
がりの次は、注文した品を斎藤の前に並べだすし.....。
「正臣、もう食えないって!......さっきからオレんところにばっか寄越すな!」
遂に斎藤も音をあげる。高校生じゃあるまいし、ふざけている正臣に斎藤もキレ気味に云うが正臣は全く気にする様子もない。
「おい、いい加減止めろって・・・」
さすがに俺も笑えなくなってきて、正臣の腕を引くと云った。
そうでなくても俺と正臣の同居がどんな風に伝わったのか気になっているってぇのに、そんな話をする間もなく食っては又注文を繰り返していた。
「.......そういや、いつ引っ越し?オレ、手伝いに行ってもいいけど。ハルヨシは土日、仕事休めないだろうから。」
斎藤が、漸く本題にこぎつけたとばかりに身体を乗り出すと云った。
「ああ、ソレな。.........いいって、そんなに荷物は無いから。それに、オレはハルヨシに手伝ってもらうし。別に火曜日に合わせて引っ越ししたっていいんだ。」
「あ、っそう?!なぁ~んだ、オレの好意は要らないってか?.....ま、いいけど。」
不服そうに口をへの字に曲げて、斎藤は云いながらガリに箸をつけた。
「で、今日オレを呼んだのはどういう事で?」
斎藤が向かいの正臣の顔を下から覗き込むと訊く。
「え?斎藤呼ばれたの?」
俺が今更ながらに訊く。そりゃあ、たまたま一緒になった、なんて事はないんだろうけど.......。
正臣が、わざわざ呼び出したって事が引っかかる。前は、俺と斎藤が一緒だったのを見ていい顔をしていなかったくせに。
「斎藤さぁ、ハルヨシの事、好きだろ?!」
「........は?」
「え?」
突然、正臣がそんな事を云うから驚いてしまった。
「好きって............?そりゃ、好きだけど....、なに?急に変な事聞くなよ、お前だってハルヨシの事は好きだろ?」
斎藤はバカ正直に答えると、正臣に向かって訊き返した。
俺は、なんとなく恥ずかしくて下を向いてしまう。いい大人が、友人を好きかどうか確認し合っている。
「ハルヨシは、..........オレのハルミなんだ。」
「...........は?ハルミ?........え?何云ってんの、お前。.......、ハルミって名前、どこかで聞いた様な.......」
斎藤は全くピンと来ていない様で、ハルミって何?と俺の顔を見ると訊いてくる。
家族連れやカップルでにぎわう店で、男が三人顔を突き合わせてこんな話。俺の心臓はバクバクと飛び出しそうだった。
せっかくの食べたものが戻って来そうになると、正臣の腕に肘鉄を食らわせて「出ようよ。」と告げる。
正臣の考えている事が分からない。
ひょっとして、こんな所で俺たちの関係をカミングアウトするつもりか?!
「もう、腹いっぱいになったし、帰ろ!今日は正臣のおごり、な!」
そう云ってお会計のボタンを押すと、俺は立ち上がった。
「え?........おい、ハルヨシ?」
斎藤が慌てて俺の腕を掴もうとするが、するりと抜け落ちてそのまま向きを変える俺に、「ハルミ、待てよ!」と云った正臣がテーブルの上に一万円札を置くと俺の後をついて来る。
「えっ、おい!」
「わりぃ、それで払っといて!釣りはまた今度。」
背中に聞こえる二人の会話を無視するかの様に、俺は黙々と出入り口を抜けて外へ出る。
漸く掴んだ俺の手をそのままに、今度は正臣の方が前を歩き出すと俺が引っ張られる格好になった。
「ちょっと、痛いって.....!離せよ、バカ!」
そう云うと振りほどくが、振り返った正臣の表情はなんだか真剣で、訳もなく俺はたじろいでしまう。
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