111 / 119
第111話 俺の癒し・・
こんな事をしている場合じゃないのに_____
正臣のくちづけを心待ちにしていたかのように、俺の胸は高鳴った。
抱えた不安も、今こうしていると感じなくて済む。すべて正臣に身を委ねれば、それだけで安心してしまう自分。
でも、..................
「まさ、おみ............、明日、引っ越しだから、」
ギュっと抱きしめられた身体を少しずらすとそう言った。
ベッドの上。まだかろうじて服は着たままだ。
このまま流されるように、身体を重ねてしまいたくなるが、明日に響いてもいけないし。
「うん、分かってるよ。今夜は確認に来ただけ。それと、携帯、繋がらなかったから心配で。でも、もう帰る。良かったら明日の晩、来てくれると嬉しいけど...............。」
少しはにかんで俺の顔を見ると、正臣は鼻の頭を擦りながら云う。
「ちょっと遅くなるけど、必ず行く。手伝える事あったら言って。」
「ありがとう。待ってる。」
二人、手の感触だけで互いの頬や肩に触れて、此処にいる幸せを感じていた。
「じゃあ、..........帰る。」
そう言って立ち上がると、俺の頭をぐしゃっと撫でてから玄関へと行った。
「おやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
二人で声を掛けあうと、ドアを開けて帰っていく正臣の後ろ姿を眺める。
静かに閉じたドアに、残像を確かめるかの様にじっと見つめていると、ギュっと唇を噛みしめた。
____ああ、やっぱり一緒に暮らしていたら、俺は台湾へなんか行けないよ。正臣を残して行くなんて、たとえひと月だって嫌だ。
子供じみていると笑われるかもしれないけど、本気で辛くなる。
やっと掴んだ幸せな時を..............................。
又、離ればなれになってガマンしなきゃならないなんて。
ともだちにシェアしよう!