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第111話 俺の癒し・・

 こんな事をしている場合じゃないのに_____ 正臣のくちづけを心待ちにしていたかのように、俺の胸は高鳴った。 抱えた不安も、今こうしていると感じなくて済む。すべて正臣に身を委ねれば、それだけで安心してしまう自分。 でも、.................. 「まさ、おみ............、明日、引っ越しだから、」 ギュっと抱きしめられた身体を少しずらすとそう言った。 ベッドの上。まだかろうじて服は着たままだ。 このまま流されるように、身体を重ねてしまいたくなるが、明日に響いてもいけないし。 「うん、分かってるよ。今夜は確認に来ただけ。それと、携帯、繋がらなかったから心配で。でも、もう帰る。良かったら明日の晩、来てくれると嬉しいけど...............。」 少しはにかんで俺の顔を見ると、正臣は鼻の頭を擦りながら云う。 「ちょっと遅くなるけど、必ず行く。手伝える事あったら言って。」 「ありがとう。待ってる。」 二人、手の感触だけで互いの頬や肩に触れて、此処にいる幸せを感じていた。 「じゃあ、..........帰る。」 そう言って立ち上がると、俺の頭をぐしゃっと撫でてから玄関へと行った。 「おやすみ。」 「ああ、おやすみ。」 二人で声を掛けあうと、ドアを開けて帰っていく正臣の後ろ姿を眺める。 静かに閉じたドアに、残像を確かめるかの様にじっと見つめていると、ギュっと唇を噛みしめた。 ____ああ、やっぱり一緒に暮らしていたら、俺は台湾へなんか行けないよ。正臣を残して行くなんて、たとえひと月だって嫌だ。 子供じみていると笑われるかもしれないけど、本気で辛くなる。 やっと掴んだ幸せな時を..............................。 又、離ればなれになってガマンしなきゃならないなんて。

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