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第112話 店長と大原さん。
ダブルベッドで膝を抱えると、横を向いて寝転んだ。
ベッドの上で見る部屋の景色。もう何年もこの目に入っているはずの景色が、今夜は妙に色褪せて見えた。
ずっと一人で過ごして来た部屋にほんの僅かでも正臣の薫りが残っていると、それだけで切なくなる。
___________俺、頑張れるんだろうか
- - -
翌朝、やっぱり大原さんは瞼を腫らして出勤してきた。
それを見た店長は、おもむろにあきれ顔をすると「また飲み過ぎ?ハルヨシくんに頼んでおいたんだけどなー。」と言って今度は俺の方を見る。
「おはようございます。飲み過ぎてなんかいませんよ。ちょっと悪酔いしただけで。それに、ハルヨシくん帰っちゃうし」
「あ、すみません、俺___」
咄嗟に店長に謝った。でも、その言葉を遮るように店長は「ジュンくん、そんな事で台湾の店なんかやっていけるの?責任ある仕事なんだよ?!二日酔いで店に出て接客するとか、あり得ないでしょ。」と、少し語気を強めて云った。
開店前でだらっとしていた俺たちの背中が、そのひと言でシャキッと伸びた。
店長と大原さんは、たまに意見の食い違いがあったが、こんなに踏み込んだ事を云うような店長は初めてかもしれない。
「...........、二日酔いですみませんね。でも、ちゃんと仕事はこなしますから。」
大原さんは一歩も引かない様子で、ロッカーにバッグを放り込むとバタン、と閉めた。
そこに居たスタイリストやアシスタントは、いつもと様子の違う二人に戸惑っている。
仲が悪いまででもなかったのに、今朝は険悪なムード。店内のBGMも虚しく天井を這うだけ。
やっぱり、台湾の店に行く事で二人の間に食い違いがある様で。店長は面白くないって思っているんだろうか。
俺には何一ついう事もないが、大原さんには結構強く当たっているみたい。
「あの、ジュンくん台湾に行くんですか?」
スタイリストのひとりが訊いて。
まだ内緒の話だったのに.............、店長が思わず言ってしまって、他のスタイリストたちも、それぞれに驚きの声をあげていた。
「ぁ、それはまだ、計画の段階で。............決まってはない、ハズ..............」
店長は椅子に腰を降ろすと、タバコを加えながら云う。
そんな頼りなげな言葉を聞くと、俺もこの先が心配になった。
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