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第113話 貧乏くじ・・・
背筋を伸ばしたまま、店長の言葉に耳を傾けると、居心地の悪さからか背中がムズムズし出して。
睨みあう大原さんと店長の間で、俺はどうしていいのか分からなくなった。
「ジュンくんが抜けたら此処はどうなるんですか?代わりに誰か来るのかなぁ。」
台湾の件が決定ではないと云った傍から心配の声があがって、大原さんの視線は店長からスタイリストの方へ逸れた。
「もし、決定になったら本店かどこかから人は来るだろ?!僕の代りなんていくらでもいるよ、心配しなくていいから。」
大原さんがそう言って微笑んだ。でも、みんなの不安は消される事はなかった。
「ま、兎に角、今日はしっかり働いてもらわないと。話は又今度だね。」
「.............はい。」
それぞれに自分の持ち物をチェックして、腰のポーチに入れてから店内へと入って行く。
俺も二人の後に付いて行くと、鏡越しに大原さんの顔を伺った。どことなく覇気のない顔。
二人の話がどんなものなのか分からないが、俺も微妙な立場で気を使う。
行きたくもない話に巻き込まれて、機嫌の悪い上司に挟まれて、いったいどうしろっていうんだヨ!
早く予約のお客さんが来てくれないかと心待ちにするが、それからの一日は時間の流れがものすごく長く感じた。
そして、ドッと疲れが増した俺に、終業時間間近になってオーナーからの呼び出しが掛かる。
本当に泣きそうになった。だって、今夜は正臣の引っ越し祝いを兼ねて二人で何か食べに行きたいと思っていたのに.....。
こういう時に限って、俺は貧乏くじを引いてしまう様だ。
台湾の話もちゃんと聞かなくては、と思うけど.........。
正直、行きたくなくて、登校拒否の子供の様に新しい世界に馴染めない自分がいる。決して悪い話ではない。それが分かっていても、やっぱり気持ちが前に行かないんだ。
日に日に気持ちは荒んでいくようで、大原さんじゃないけど酒に逃げてしまいたくなった。
_____って、あれ? 大原さんは喜んでいたんだよな?!
酒に逃げているなんて事はない、はず。
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