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第115話 大どんでん返し?!

 視線の先に居るオーナーの天野さんは、意外と涼しい顔をしていて逆に俺と大原さんの驚きを楽しんでいるようだった。 そして、チハヤさんもまたこの場の空気を楽しんでいる。してやったりという顔で、俺と大原さんの顔を見ると、ニヤリと微笑んだ。 「どういう事ですか?僕たちにどこかいけない所があるんでしょうか?!店も決まったんですよね?!」 食い下がるようにオーナーを見つめると、大原さんは訊いている。 俺も、ホッとするべきところを忘れて、只々驚きでいっぱいだった。 「ごめん。実は、新たな店のコンセプトをうちの親に伝えてみたんだ。それで、面白そうだって乗り気だったんだけどね、既に台湾にはそういった店があってさ、調べて行くうちに分かった事なんだけど、二番煎じで出店するにはインパクトに欠けるっていうか....」 そこまで言うと隣のチハヤさんに目をやった。 「......って、これはチハヤくんが調べてくれた事。だから、普通に店を出しても現地の美容室と変わらないんなら経営的にも面白みがなくなってさ、それで白紙に戻す事にした。ホントに申し訳ない。」 少し残念そうではあるけれど、オーナーはきっぱりとそう言って頭を下げてくれた。 「........な、ぁんだ......。すっかりその気でいた僕の気持ちはどうしてくれるんです?!」 くちびるを噛みしめて云う大原さんに、「申し訳ないって思っているよ。.......けど、これはキミを手元に置いておきたいチハヤくんが一生懸命調べてくれた事なんでね。二番煎じじゃ勝算はないって。それと........、ここからはチハヤくんが言うべき事、ちゃんと本人に話してあげなきゃ。」と、今度はチハヤさんの方を向いて云った。 俺は言葉を挟む間もなく、ただ目の前のやり取りを目をパチクリしながら聞くしかない。 「今更、おーはらに云う事でもないけど、.............若い頃なら、どんどん海外で活躍して来いって言えたかもしれない。でも、.........桂の事もあって、手放しで喜べないのも事実。大切な人と離れて暮らすのは、正直、凝りているからな。ちゃんと帰って来られるのか、それを毎日心配しながら暮らすのは、オレにはしんどいよ。」 チハヤさんは静かに語り出した。 『桂』さんというのは、亡くなったという昔の恋人なんだろうか...........。 「.................そんなの、..................僕は平気なのに...........。それに、桂さんと違って僕の仕事は危険な場所ではないですよ。」 「分かってる。今居る世界と、あまり変わらないのだと思う。けどさ、おーはら..................とは、この先じじぃになる迄一緒に暮らしたいって思ってんだよ、オレ。だから、出来れば手の届く場所に居てくれないかな?」 ____感動するって事を忘れていた訳じゃないけど、なんか、今この場に居て、二人のやり取りを聞いている事が俺の心を熱くしてくれる。これは、聞きようによってはプロポーズの言葉の様で........。 「_________何、言ってるんですか。.............じじぃとか。まだ相当先の話でしょ?それまで僕と居るって事ですか?!............そんな.........」 俺が俯きながらも目だけで盗み見る大原さんの瞳からは、大粒の涙が綺麗な滴となって頬から顎を伝い落ちた。 俺は見てはいけない様な、きっと大原さんは見られたら恥ずかしいかも、と思って下を向く。 そうしながら、心の中でひとり感動に胸を熱くさせていた。 正臣の事を思い出せば、俺たちも離れたくないと思っているから、チハヤさんの気持ちが痛い程分かる。 もっとドライな人だと思っていたチハヤさんに、少し驚きもある。でも、これが正直な気持ちだよな。 仕事の為とはいえ、好きな人と離れて暮らすのは辛いから。 「...............って事で、ハルヨシくんにも迷惑かけたね?!快く承諾してくれたのに、今まで通りあの店で頑張ってもらいたいから、よろしくお願いします。」 オーナーが俺を見ると云ってくれた。 「あ、いいんです!俺、自分も日本を離れたくなかったんで!良かったです、ホント。良かった_____」 つい本音を言ってしまった。が、まあ、いいか。 本当に、これで気持ちが軽くなった気がする。早く正臣に此の事を伝えなきゃ! そう思ったら早く帰りたくてソワソワした。 「.............なんだか、ひとりで浮かれていたのはオレだけか~。発想はいいと思ったんだけどねー」 残念そうに云うと、オーナーは腰をあげた。 「あ、帰るんですか?」 「うん、だって.............、ここからが二人のいい所だろ?!お邪魔しちゃ悪いからさ。ツケは又今度払うね。」 「ああ~、俺も、俺も帰ります。」 慌てて腰をあげると、オーナーの後に続く俺。 - やったぁ、早く帰れる! 意気揚々と真っ赤な扉を目指すと、ドアを開けたオーナーが「ハルヨシくん、この後ヒマ?」と訊いてきて、「いえ、すぐに行きたい所があります!!」と、俺は答えた。 あ、そう。と残念そうな顔をしたオーナーだったけれど、「じゃあ、また今度ね。」と云うとニコリと微笑んでくれる。 「はい、ご馳走様でした!失礼します!」 俺は思い切り大きな声で、お礼を云うと深々と頭を下げるが、すぐに身体をひるがえすと正臣の部屋を目指して走り出した。 ____これはメールじゃなくて、自分の口から報告しよう! そう心の中で叫ぶと、疲れた身体が嘘のように軽くなって必死で駆けて行った。 **** *桂さんとは、「曼珠沙華」に出てくるチハヤさんのお相手。こちらを先に読まれた方はネタバレでごめんなさい🙏

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