ここでキスでもしてしまえば、そのまま硬い床の上で絡み合ってしまいそうなのをなんとか堪えると、正臣の回した手をそっとほどいて玄関のドアノブに手を掛けた。 「さっ、腹ごしらえしなくちゃ。」と、わざと跳ねる様に云うとドアを開ける。 「だなっ！オレも腹減ったよ。」 正臣は急いでスニーカーに足を入れると、ポケットからカギを出して扉を閉めた。 「.........ハルミにも合鍵あるからな。あとで渡す。」 カギをかけ終るとニコリと笑って俺を見た。その表情はちょっとだけ照れているようで、先に渡してくれてもいいものを。 もったいぶってんな、と思いながらも、「サンキュ、」と言っておく。 歩いて4～5分の所にあるファミレスにやってくると、早速二人でメニューを広げる。 チハヤさんの所でカクテルを一杯だけ飲んだが、それじゃあ物足りなくて、俺はビールを注文した。もちろん正臣も同じものを頼むが、余程腹をすかしていたのかステーキセットとは別にパスタも注文した。 俺はミックスグリルだけを頼むと、注文を取り終えて奥へ行くウェイターの後ろ姿を見ながら「ホントによく食うな！だからそんなに成長するんだ？！」と呆れ顔で云う。 「まだ身長伸びてんだよね。」 「え！マジ？！..........俺に身長分けてくれよ。いっぱい食べたら伸びるのかなぁ。」 「ﾝなわけないだろ！オレの場合は家系だから。爺さんがデカい人で、うちの親父は普通なんだけど、オレは爺さんに似たらしい。ハルミは今ぐらいがいいんだよ、丁度オレの胸の辺りに顔が来てさ。」 「ばっ、バカな事いうな、こんな所で............。」 焦る俺が辺りを見廻すと、正臣はクスクス笑う。 俺とは違って、正臣は平気で俺との関係が分かりそうな話をするからビックリする。 俺たちの関係を秘密にしたい訳じゃないけど、やっぱり今まで隠して来たから.........。 いきなりオープンにはなれなかった。 「ハルミは焦り過ぎ！.......別にいいじゃん、バレたらバレたで。いずれは一緒に暮らすんだからさ。」 「...............ぁ、まあ、そうなんだけど......。」 此処で云ってしまいそうになるが、まだまだ堪えておこう。ビックリして叫ぶかもしれないし。 暫くして料理が運ばれてくると、正臣はステーキを一口サイズにカットして俺の皿に乗せてくれる。 それをツマミにビールを飲めば、引っ越し業社とのやり取りや掃除が大変だったことなんかを話し始めた。 俺は、仕事がら綺麗にするのは慣れているし、特に苦にした事もない。でも、正臣はきっと今まですることも少なかったんだろうと思った。 「そういえば、正臣は料理は出来るんだったよな。俺はあんまり得意じゃないけどさ。」 前に作ってくれたのを思い出して云うと、「あ、そうだな。少しなら出来るか、ハルミよりはマシかも、あはは」と笑う。 俺が掃除して、正臣は料理を作る。 そんな絵にかいた様な生活が本当にこれから始まるんだとしたら、......幸せ過ぎるな、俺。