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 男の呻きは僕に空襲を思い出させた。  あの、  獣のような、  化け物のような、  生に餓えた死ぬ間際の人間の、  怒涛の如き、  泣き、  喚き、  叫び、  哀願し、  許しを請う  あの呻きに思えて僕は気が障れる心地になるのだ。  そして焼き出された後には生への欲が人間を本物の獣に変えた。  否、還えしたというべきか。  炎に包まれた弟を、  僕は見殺しにした。  自分を守ることしか思い付かなかった。  人の焦げる匂いは、肉の焼ける匂いに他ならなかった。  僕は八つも歳の離れた可愛い弟を見殺しにしたのだ。  よちよちと僕の後ろをついて回り、拙い声で僕を呼んでいた幼い弟を。  空襲にやられた家と共に、泣き叫び喚きながら燃えていった弟を。  父も母も死んだ。  焦土の中で僕だけが生き残った。  男の呻きは、僕を責める、無数の人間だった物の声だった。

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