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 僕が憔悴しきって床を出ると、いつも男はけろりとして膳を前にしている。  「早く座れ」  僕の朝餉は粥から焼き魚、味噌汁、少量の白米、沢庵に変わっていた。  喉を鳴らして唾液を飲んだ。  しかし、唾液は次から次へと分泌され、口中に溜まっていった。  腹が減って仕方なかった。  僕は常に餓えていた。  「戴きます」  男は大きな掌を合わせ、膳の前で瞼を閉じた。  あのぎょろりぎょろりと動く目が伏せられると僕は安堵した。  僕も黙ってその行動を真似た。  僕の発声を早々に諦めた男は僕に手帳と万年筆とを持たせたが、生憎、文字など書かなかった。  其れは僕が白痴であったからではなく、書くつもりがなかったからだ。  「喰ったら、脱げ」  男は瞼を伏したまま、僕に言った。

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