12 / 68
*
僕が憔悴しきって床を出ると、いつも男はけろりとして膳を前にしている。
「早く座れ」
僕の朝餉は粥から焼き魚、味噌汁、少量の白米、沢庵に変わっていた。
喉を鳴らして唾液を飲んだ。
しかし、唾液は次から次へと分泌され、口中に溜まっていった。
腹が減って仕方なかった。
僕は常に餓えていた。
「戴きます」
男は大きな掌を合わせ、膳の前で瞼を閉じた。
あのぎょろりぎょろりと動く目が伏せられると僕は安堵した。
僕も黙ってその行動を真似た。
僕の発声を早々に諦めた男は僕に手帳と万年筆とを持たせたが、生憎、文字など書かなかった。
其れは僕が白痴であったからではなく、書くつもりがなかったからだ。
「喰ったら、脱げ」
男は瞼を伏したまま、僕に言った。
ともだちにシェアしよう!