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 男は次第に疲弊した。  意識の外事とは言えど、男の精神を蝕む悪夢はそれ程に強烈だった。  僕は悪癖を止め、男の寝入った後、第一の痛切が聞こえたら直ぐに隣室へ赴く様に成った。  かといって、男が癒される事は無かった。  僕には午睡する為の時間は有り余る程に在り、男は其の午睡を全く厭わなかった。  「貴様、夜中何をして居る、」  一度男が問うたが、僕は知らぬ振りをした。  男に、意に介した風は無かった。  昼間、男の居ぬ間を見計らい、男の部屋に入った。  男の汗の匂いがした。  後は藺の匂いが立ち込め、畳が真新しいことを知った。  ぐるりと見渡せば、欄干に遺影の二つを見つけた。  一つはあどけない少年兵を写し、一つは大層立派な陸軍将校殿の遺影だった。  僕が見蕩れたのは将校殿の写真だった。  襟章に菊花紋を付け、しゃんと背筋を伸ばした姿は凜と美しい。  美青年の名が相応しく、こけず、触れれば張りの在りそうな肌はこの家の家人とは全く掛け離れていた。

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