18 / 68
*
また、男が悲鳴した。
僕は襖を静に開き、男の枕元に座ってじつと其の貌を見詰めた。
枕元には僕以外に短刀が居た。
この男、死ぬつもりやも知れぬ。
僕は初めて其の気配に寒気した。
眼窩は落ち窪み、薄い瞼からは眼球の世話しない運動が見て取れた。
其の痛ましさに、僕は男の頬に触れた。
「杳」
男の唇が聞いた事もない優しさを伴って蠕いた。
何を意味するとも解らぬ。
解らぬが指先だけは退けてはならなかった。
今、男を癒やせるのはこの枯れ枝の様な指だけであると、判っていた。
刹那、
僕は彼の腕に抱かれていた。
ともだちにシェアしよう!