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男の鼓動は僕の鼓動を抱き、僕の鼓動は傷みを抱いていた。
男の腕は自分を求めているのではない。
判っていて尚、僕は黙って抱かれていた。
強く優しい腕が僕を掬い抱き、厳つい掌がごわついた髪を撫で、上向いた顎に唇が開いた。
男の唇が僕の唇を吸った。
こんな事は初めてだった。
髪を撫でられ、舌が口中を舐め回す。
口の中を濡れた肉の塊が動き回り、息が覚束なくなる。
苦しい。
脳が酸素を求める。
「―――!」
男の手が乱暴に僕の着物を剥いだ。
「杳」
男の唇が接吻の合間に誰かの名前を呼ぶ。
僕は息が出来なくて苦しくなる。
「―――!―――!」
掌が僕の小さな乳首を掠り、僕は腰を突き上げた。
隠茎が勃ち上がり、僕は身体を弓なりに反らせた。
其の間にも男の唇は僕の唇を覆い、其の舌はまるで僕の脳を蕩かせる様に優しく、柔らかく僕を宥めた。
息の苦しさが、脳を満たし、目の前が霞んだ。
絡み合う舌が自分の物なのか男の物なのか判らなく成る。
「杳」
僕は応えて男の首筋に腕を絡めた。
何故などという疑問は無かったが、涙が溢れた。
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