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 頼りない表情を曝す癖に、其の顔には遺影の将校殿の面影が確かに在った。  「罪悪」  彼はひび割れた唇を動かし、呟いた。  「罪悪だ」  彼の顔から表情が失せ、後にはのっぺりとした無表情だけが張り付く。  「俺は、」  唇が震えていた。  ぐりぐりと異様な大きさと眼光を放つ眼が見開かれていた。  「お前を殺して喰ったのだ」  其の見開かれた目におぞけ立った。  「杳」  彼の目はもはや僕を見てはいなかった。  目の前に開いた真っ暗な穴を見るように、彼は虚空を眺めていた。  駄目。  気がついたら、彼にしがみついていた。  彼は虚空を求めている。  捕らえていなければ、簡単に”そちら側”に行ってしまう。  意味も判らずそう思った。  そう感じた。

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