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罪悪

 「喰って仕舞ったのだ」  彼は生気のない目で空虚を眺め、僕は其の身体に縋ってどうにか自分を彼の硝子玉のような眼に映そうとした。  力無く解けた冷たい手は、彼の体則に落ち着く。  僕は彼の両頬を挟むようにして両手で包んだ。  「杳」  幾ら無理矢理にこちらを向かせたとて、彼の眼に僕は映っていない。  叫びたかった。  彼はこのまま何処かへ行って仕舞うのではないかと不安になった。  「アァウ」  相変わらず僕の口から零れるのは意味を成さない呻き。  僕らの生きている世界が浪漫小説の世界なら、きっと僕の声は出るはずだった。  「あぁぉぅ」  でも僕らの生きる世界は浪漫小説でも、少年倶楽部でもないから、僕の声は出ない。  僕が幾ら『ユルス』といっても、叫んでも彼は赦されないし救われない。

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