35 / 68

 彼の目の中には密林の、僕の知らない国が映っていた。  其の瞳が揺らぐ。  「あれは人間の所業じゃない」  彼は虚ろんな眼で独白した。  「気が違っていたんだ、俺は。」  訥々と零れる言葉はまるで僕より幼い子供の様。  「喰わなければ死んだ」  ぽつんと落ちた言葉は僕の良く知る言葉だった。  「すまない、すまないすまない…」  皆が、そうだったのだ。  喰わねば死ぬ。  死にたくはない。  生きるためには、誰かを見殺しにすることも、誰かを殺すことも、  喰うことも、できた。  何が僕の心の琴線に触れたのかなど、僕にも判らなかった。  「あぁぅー…あぁぅぉ―…」  判らなかったが僕の目から涙が溢れた。  僕は泣きながら訳の判らない呻きを上げた。  「あぁうー!」  僕は涙に濡れた頬を彼の頬に擦り付けた。

ともだちにシェアしよう!