37 / 68

 躯を丸め、彼の胸に縋って泣いた。  僕は泣くことしか出来なかった。  「ヨウ」  彼の指が僕の肩に触れる。  冷たい指先。  「……貴様が泣いて何になると言うのだ」  しわがれた声に僕は涙も鼻水も涎も其のままに彼を見上げた。  「泣く子供には敵わん」  彼は腫れた眼を曝したまま、少し笑った。  アナタガ、  僕は唇を開き、その首筋に縋った。  汗と涙の匂いがした。  アナタガキエテシマウカト  言葉にすれば其れは本當に成って仕舞いそうで、僕は又、溢れたそうに張った涙を堪えねば成らなかった。  「俺が消えるのは厭か」  イヤデス  「俺はお前を拾っただけの男だ、何を谺わる」  ワカリマセン、デモ、キエルノハ、厭デス  僕は忙しく彼の背中に僕を書く。  ひとつひとつが僕の言葉。  又、はらはらと涙が零れ、彼の絣の着物を濡らした。  其れは布地に染み込み、彼の肩を濡らすだろうか。  「又、泣くのか」  彼は僕の肩を掴み、そっと引き剥がして笑った。  折り畳まれた足を伸ばすと、彼は独逸人の様に足が長く、長身だった。  其の長身が、襖の奥、僕の知らない部屋の方に消えて、僕は呆れられたのではないかと不安に成る。  将校殿は直ぐに泣く女々しい男児は好まないだろう。  何時も唇を真一文字にきゅっと結び、涙を見せない方がお好きなのだろう。  遺影の少年兵の様に。  僕は裸の腕で涙を拭った。  後から零れそうに成るものは押し止めて耐えた。  すらりと襖が開いて、僕は息を飲む。

ともだちにシェアしよう!