47 / 68
*
彼は時折激しく咳込み、僕は其の度、彼の部屋に立ち入ろうとしたが、
「来るな」
という、彼の強い声で制された。
そうしてまた、僕は与えられた部屋で寝起きし、彼はあの遺影の部屋で過ごすようになった。
縁側には、陽が当たらなくなった。
次第に冬を迎えようとする空は、厚く雲が垂れ込めた。
僕はレコードを持ち込み、エチュードを聞く。
僕と彼を繋ぐのは其のか細く、頼りないメロディのみのように思われてならなかった。
僕は日に三度粥を作り、彼の部屋に立ち入った。
彼は其の時間と気配をしっかり判っていて、僕が部屋に入る頃には身を起こし、うっすらと笑って迎え入れた。
其の気丈が余計、僕には痛かった。
ともだちにシェアしよう!