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 彼は時折激しく咳込み、僕は其の度、彼の部屋に立ち入ろうとしたが、  「来るな」  という、彼の強い声で制された。  そうしてまた、僕は与えられた部屋で寝起きし、彼はあの遺影の部屋で過ごすようになった。  縁側には、陽が当たらなくなった。  次第に冬を迎えようとする空は、厚く雲が垂れ込めた。  僕はレコードを持ち込み、エチュードを聞く。  僕と彼を繋ぐのは其のか細く、頼りないメロディのみのように思われてならなかった。  僕は日に三度粥を作り、彼の部屋に立ち入った。  彼は其の時間と気配をしっかり判っていて、僕が部屋に入る頃には身を起こし、うっすらと笑って迎え入れた。  其の気丈が余計、僕には痛かった。

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