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 寫眞屋は程なく着いた。  街の中で一番はずれにある此の屋敷を簡単に見つけ、寫眞屋は彼の姿を見て、眉根を寄せる。  「将校さんかいね」  其れは気分のいい声ではなかった。  僕は明らかな憤りに拳を握った。  其の拳を、彼の掌が納めた。  彼が哀しく首を横に振る。  戦時中は『お国の為』闘ってきた軍人とて、所詮は戦争の加担者と見えるのだ。  そういう諦めを、彼の微笑は持っていた。  「じゃあ、とりますよ」  僕らは縁側の前に立ち、彼は軍服、僕は緋の襦袢で薄く笑った。  彼と同じ笑みがしてみたかった。  彼の悲しみが判りそうだったから。  「キミは表情が硬いねぇ」  なのに其の寫眞屋と来たら、僕の両頬をむずと掴み、横に縦にと捏ね繰り回す。  悲鳴を上げそうになり、堪えて、漸く離された時には、僕は自棄になって威嚇するために歯を剥き出した猿の様な顔で映写機を睨んだ。  「ふはははは」  そんな僕の顔を見て彼が破顔するから、僕も柔らかな気持ちになって、笑った。  シャッタが落ちる音。  納められる、倖せな時。  纏わりつく、死の匂い。  彼の襟に付いた菊の紋だけ、鮮やかに陽の下に照らされていた。

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