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菊花の言葉

 彼をどうしたらいいのかなんて、僕に判る筈がなかった。  昔、遠い昔、  飼っていた犬を、庭に埋めた。父がしてくれたことだった。  縁側から庭に降り立つと、空は澄み、星が瞬いた。庭に、菊の2輪が季節外れの蕾を膨らませていた。  菊は、高貴な花。  潔い花。  貴方を守ると言った言葉に、嘘は無い。  其の下に、そっと指先を触れた。  冷たいが、温かい。  此処が良い。  ざりと、土の音がする。  指先で分けた。  丁寧に。  丁寧に。  菊は高潔な花。  彼の笑顔に似た花。

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