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爪の先に土が入り込む。
指先は爛れ、既に星は旭の明さに呑みこまれようとしていた。
まだ、此の幅では足りない。
彼の躰は、僕が両手を広げて漸く抱きつけるだけ。
しゃり、しゃり、と、音がする。
もっと深く掘らねばならない。
蓄音器をかけていなくても、あのエチュードが、頭をめぐっていた。
嗚呼。
どうして忘れていたのだろう。
落ちてくる、音の粒。
僕の頬に、僕の手に。
「ひぐ…」
彼はこの曲をエチュードと言った。
違う。
この曲は、父様も好きだった曲。
「ひぐ…」
張りついた喉から、嗄れた声が溢れた。
彼は初めから判っていたのかもしれない。
この曲を何度も流していた。
「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――」
鼻水が垂れた。
顔中がぐしゃぐしゃになる。
気にしている余裕はなかった。
冷たい。
動かない。
置いて行かれた。
僕を考えてもいなかった。
「ぅあぁぁぁぁぁ!!!あぁぁぁぁぁ!!」
彼の笑顔を覚えていた。
彼の笑顔が愛しかった。
愛など知らなかったのに。
彼の高潔さが、
彼の温度が、
彼の声が、
彼の胸が、
消えてしまった。
僕は、こんなにも、彼を愛していた。
その曲の名は
『別れの曲』
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