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幾度、日が昇り、幾度星が瞬いただろう。
其の頃、僕の涙はもう枯れ果てて、両手は麻痺して感覚さえなかった。
と言うよりは、手が付いているということすら、感じることができなかった。
満足に穴を掘れたかわり、僕は履き物を喪失してしまった。
赤ぎれた足先も感覚は無かったが、僕自身の感覚も消失されてしまったようだった。
僕は、彼を愛していたのかと思うと、それはとても、羞恥すべきことの様に感じた。
彼に恋慕するなど。到底叶いもしないのに。
すわと襖を開く。
僕は、彼の其の、美しい横顔に驚いた。
人間の皮膚の色を脱しだ白さ。鼻梁の正しさ。唇の括れ。
死して、彼はあの遺影の面影を、更に美麗にしていた。
青年将校らしい彼は、その顔に晴朗さを湛えていた。
高潔な清浄な高貴な高尚な誠実な。
正に菊の様な。
精巧な蝋細工の様な彼の頬に触れた。
冬の空気を吸った肌は冷たく冷え、其の頬が土に汚れた。
僕は慌てて其れを緋色の衣で拭い、彼の右腕を肩に担いだ。
意識の無い人の躰は重いと聞いていたが、思っていた以上だった。
夜な夜な、圧し掛かっていた彼は、僕が圧死せぬよう、気を張っていたことが判る。
また、涙が伝うかと思ったが、もう目が潤むことは無かった。
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