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 彼を埋めるには、掘る時の10分の1も時間がかかからなかった。  あっという間に、彼は土に見えなくなり、雪は激しさを増した。  牡丹雪がひらひらと落ち、葉を落とした紅葉は薄い雪化粧。  僕はこんもりと山になった土の上に座った。  僕の下に、彼がいる。  其の胸に縋るように、地に顔をくっつけた。  音もない。  熱もない。  ただ、僕を避けて、雪が積もって行く。  ひらと落ちた一片の上にまたひらと一片が落ちる。  結晶の、無数の網目が下の結晶の網目を塞ぐように覆い、溶ける前にまた、新たな一片が重なる。  幾重にも重なる。  幾重にも。  僕は、なんだか本当に彼の胸の上にいる心地がしてきた。  真っ白な、布団。  流れる、『エチュード』  別れ。    などいらない。  僕はエチュードと言う名前だけ知っていればいい。  落ちる音は雪と同じ様に僕の上に舞い落ちる。  たぁんた、たたたた、たたたたぁん、  耳の奥。  彼の声が聞こえる。  柔らかく、僕を呼ぶ。  彼が知らない筈の、僕の名で呼ぶ。  ほかでもない、僕を。

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