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第16話

side蒼 見知らぬ天井が見える。 (ここはどこだろう?) 「……どこ?」 周りを確認するために見渡すと一縷がベッドの隣にパイプ椅子に座っていた。 「あお、おはよう」 「…いち?」 「よく眠れたか?」 「うん。ここどこ?」 「あおが通院している病院だよ」 「僕どこか悪かった?」 「全然。どこも悪くないよ」 「そっか。いち、家に帰ろう?」 特に悪い所があるわけではないらしい。 それなら家に帰りたかった。 小さな頃から病院は好きじゃない。 「その前にあおに話があるんだ」 「何?」 一縷が改まって言い出す事がある時は決まっていい話ではない。 そんな話聞きたくなかった。 「悪い所はなかったんだけど、一つ懸念材料が残っているんだ」 「何?」 「あお、もうすぐ発情期だろ?」 「…うん」 「ホルモン値が高値だから、もしかしたら妊娠している可能性があるそうだ」 「何言ってるの?」 「だから…」 「僕は妊娠なんかしてないよ?」 「あお…」 「いちも悪い冗談がすぎるよ。とにかく家に帰ろう?」 一縷は困った顔をしていた。 発情期? そんなの自分が一番よく分かっている。 いつもはそろそろ発情期前症候群が始まる頃。 女の子の生理前に似た症状が見られる。 今回はそこまで発情期前症候群がひどくない。 だから妊娠なんてしてない。 そう信じたかった。 一縷以外の人間の子供なんて産みたくなかった。 一縷の子供であってもまだ怖かった。 覚悟ができていない。 もし産まれた子供がΩだったら…。 自分のような周りに理解してくれる人が多くいたならいいだろう。 しかし、周りに理解してくれる人がいなかったら…。 今回の僕のように強姦されてしまったら…。 それを思うと怖くて子供を作ることに躊躇っていた。 Ωである辛さを知っているのは自分自身なのだから。 それを子供にも背負わせてしまうと思うと覚悟ができなかった。 立ち尽くす一縷を前に自分で帰り支度をさっさと済ませる。 「いち、家に帰ろう?」 「あぁ…」 一縷を促して帰路に就く。 きっと一縷は僕が現実を受け入れられずにいると思っているのだろう。 現実なんて受け入れられていない。 というか、受け入れたくない。 妊娠なんて、そんな怖いこと受け入れられる程僕は強くなかった。

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