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第18話
side蒼
目覚める。
時計の針が不思議な位置にある。
(今の時間だと僕は半日以上寝てたことになるの?)
時計が故障していた気配はない。
部屋から出てみると、どうやら一縷はいないようだった。
買い物に出かけているのかもしれない。
外を見ると随分日が射している。
リビングに行ってテレビをつける。
夕方のニュースをやっていた。
特別見たい番組があったわけではないので、すぐにテレビを消した。
冷蔵庫から水を取り出し、飲み干す。
冷たい水が胃に流れ落ちる感触が分かる。
ずっと寝ていたので、大してお腹も減っていない。
食欲も湧かないので、トイレで用を足して再び自室に戻る。
忘年会の日以降、ずっと眠ってばかりいる。
起きていようと思っていても、無意識に寝ている。
一縷が心配して病院に行こうと言ってくれたけど、受診しようと思っていた日もずっと寝てしまっていたので、結局今日まで受診できずにいる。
(あの日何かあったんだろうか?)
忘年会の日の出来事は正直あまり覚えていない。
僕が覚えているのは、始業時間が始まってすぐに部長から会社のトップが来るから忘年会に出席するよう言い渡されて、定時まで仕事をしてから一旦家に戻ってシャワーを浴びてからスーツを着て、会場にタクシーで行った。
それから、美味しいお酒と料理を食べつつ、いろんな人と談笑した。
そこまでしか覚えていない。
気付いたら病院にいて、一縷から妊娠の可能性があるとか言われた。
体にはキスマークがこれ見よがしに付いていて、一縷が辛そうな顔をしていた。
一縷の顔を見れば、あの時体に付いていたキスマークが一縷のものでないのは一目瞭然だった。
僕は誰かとセックスしてしまったんだろう。
結構お酒が入っていたから記憶をなくすまで飲んでいたのかもしれない。
介抱してくれた誰かに抱かれてしまった。
それが真相なんだろう。
一縷に聞こうとも思ったけど、内容が内容なだけあって、聞くに聞けなかった。
そんなことを考えていると、また眠くなってしまった。
頭を使うとどうも眠くなってしまう。
無意識に時間を確認する。
(午後六時前…)
ベッドに横になると、途端に眠りに落ちた。
どれくらい寝ていたのだろう。
寝すぎて腰と背中が痛い。
昔はそんなことなかったのに…。
これも歳には勝てないということなんだろう。
目を開くと、一縷が隣にいた。
「あお、おはよう」
「…いち、おはよ」
「おなか減ってないか?」
「寝てただけだからそこまで減ってない」
「お粥なら作れるけど少し食べるか?」
「うん。ちょっとだけもらう」
「作ってくるから、ちょっと待っててな」
一縷は僕の頬に軽いキスをして、キッチンに向かった。
一縷は料理をしない。食べる専門。
基本僕の役割。
一縷が作ってくれると言っていたので、がんばって起きて待ってみる。
今まで起きていられたのは一時間が最長だった。
それ以上起きていられたことはなかった。
一縷が一時間以上帰って来なかったとしても、がんばって起きていよう。
せっかく一縷が作ってくれるんだもの。
次がいつ来るか分からないからね。
一縷を待っている間携帯をチェックしていた。
ずっと寝ていたから仕事が滞っているはずだし、無断欠勤になっているはずだ。
そう思って開いた携帯画面には部長からメールが入っていた。
【立華さんから事情は聞いたので、体調がよくなるまでゆっくり休んでください】
一縷がわざわざ会社に連絡をしてくれたんだろう。
寝てばかりで会社に連絡することにも気づかずにいた。
(後でお礼を言っておかなくちゃ)
そう思っていると、お粥の入った土鍋をお盆に乗せた一縷が戻ってきた。
「遅くなってごめんな、あお」
「いち、待ってたよ」
「あおみたいに上手に出来てないから不味かったら食べなくていいからな」
「せっかくいちが作ってくれたお粥なのに残さず食べるよ。いただきます」
最近何も食べてなかった胃に一縷の優しい味付けのお粥が入っていく。
一口、二口で終わるつもりだったけど、気付けば完食してしまった。
何も食べていないのは一縷も知っていたようだった。
「いきなりそんなにお腹に入れて大丈夫か?」
「大丈夫だよ。お腹いっぱいで眠くなってきた…」
「そうか。それならもうひと眠りするといい」
「せっかくいちと一緒なの…に…」
久々のご飯。
しかも一縷の手料理。
一縷と一緒にいられる貴重な時間。
まだまだ寝たくなかったけど、本能には抗えなかった。
「そのまま眠っちまえ」
「や…だよ…いち…と…もっと…はなし…た…い………」
起きていられる最長の一時間が来て、僕は眠りの国へ旅立った。
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