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第27話

side一縷 忘年会の一件から半年。 季節は廻り、初夏になろうとしていた。 あれから生活はほとんど変わりなかった。 蒼は家で在宅でできる仕事を始めた。 出かける時は俺が常に一緒にいた。 外で一人になるのが怖いようだった。 一つだけ大きな変化があった。 キスをはじめとした、性的な事をしなくなった。 最初は蒼がまだ慣れないからと思って避けていた。 何となくそれは蒼も感じていたようだった。 それが習慣となってしまったのか、全くなくなってしまった。 以前は行ってきますからおやすみまで、何かしらかこつけてはキスをしていた。 それが今では触れるのは手のみで、それ以上は何もない。 現代社会の問題となっている、セックスレスというやつに俺たちも陥っていた。 特別性的なことがないから不仲になったかというと、そういうわけでもない。 相変わらず仲はいい。 ただ、やはり俺もまだ盛んな時期ではある。 性欲もまだまだ旺盛であった。 解消するにしても、映像を見たり、本を見たりしたが、蒼の感触が忘れられず、達せなかったことが何度もあった。 そんな四月初旬のある日、俺と蒼の連名で手紙が届いた。 宛名は高校時代の友人だった。 今度結婚するらしい。 招待状だった。 もちろん俺も蒼も参加すると返事した。 そして、初夏が始まる六月。 蒼も憧れていたジューンブライド。 朝から着替えて、結婚式に向かう準備をしていた時だった。 部屋の奥から甘い匂いがしてきた。 匂いを辿って行くと、蒼の部屋からだった。 (この匂い……もしかしてっ…!) ドアをノックする。 「あお、ちょっといいか?」 「いいよ」 ドアを開けて部屋に入る。 一気に甘い匂いが濃くなる。 蒼は発情期に入ろうとしていた。 少し頬が紅潮して、瞳が潤んでいる。 「あお、発情期来てるだろ?」 「突然すぎて、薬飲んだけど間に合わなかった…」 「周期、ずれたのか?」 「うん…いつもより二週間ずれた」 今や番となっているから蒼のフェロモンは俺にしか効かない。 結婚式に参列するのは問題ないだろう。 しかし、こんな扇情的な蒼を誰にも見せたくなかった。 「あお、今日の結婚式は欠席した方がいい」 「大丈夫だよ。行くよ」 「そんな顔で行けるのか?」 蒼に鏡を渡した。 自分が今どんな顔をしているのか見て、蒼はより一層顔を紅くした。 そんな蒼を見ていて、本能に抗えなくなっている自分もいた。 これ以上蒼の部屋にいたら、蒼を襲ってしまう。 「奴には俺からあおの分までお祝い伝えておくから、家で待っててくれ」 そう言うと、足早に部屋から出ようとした。 「…………待って」 蒼が背中にしがみついてきた。 「いち、待って」 「ごめん、あお。これ以上あおの部屋にいたら俺何するか分かんないから…」 「何でいちは僕とエッチしてくれなくなったの?」 「それは……」 「忘年会の件で僕が傷ついているから?」 「そうだよ」 「でも、もう半年経ったよ?」 「フラッシュバックとかするかもしれないだろ?そうなったら辛いのはあおだぞ?」 「それでも、キスすらしてくれなくなった…」 「…………そうだな」 「もういちにとって、僕はいらない?」 「そんなことないっ!」 「じゃぁ、何で?」 「あおが傷ついて…」 「そんな理由じゃなくて、ちゃんとした理由言ってよ」 「俺の勝手な欲望であおを傷つけたくなかった。本当はいっぱいギュッてしたいし、キスだってしたいっ!毎日立てなくなるまで、意識吹っ飛ぶまで、声が枯れるまでセックスしたかったっ!でも、それを今したら、あおがまた壊れてしまうんじゃないか。そう思うとあおに触れることすら、怖いと思うようになった。ごめん。俺の勝手な思い込みで、あおを余計に傷つけるようなことにしてしまって……」 蒼はただ俺の目をじっと見つめて話を聞いていた。 「それじゃ、次は僕の番ね」 そう言うと、深々と頭を下げた。 「僕も、謝らなきゃいけないの。さっき嘘ついた。周期はずれてない。最近多少ずれることはあったけど、二週間もずれることはないの。薬はわざと飲まなかったの。いちに抱いてもらう口実を作るために…」 そこまで言うと、俺の様子を伺うように恐る恐る頭を上げた。 「ずっと抱かれたかった。いちは僕を愛してるって言ってくれた。その言葉を信じたかったけど、全然抱いてくれなくなって、不安が胸を支配していった。だんだんいちの言葉を信じられなくなってきている自分がいた。それが怖くて、発情期に強制的になら抱いてもらえるんじゃないかって思って薬飲まなかったの。本能に訴えるなんて姑息な手段を選んでしまってごめんなさい」 蒼は再び深々と頭を下げた。 「あお、頭上げて?」 蒼は俺の言葉の通り、すっと頭を上げてくれた。 「謝るのはお互い様だ。話し合いができてなかったからこんなことになったんだから」 「そうだね」 「本当に抱いても平気なのか?」 「いちに抱かれたいの。お願い」 「分かった。少し待ってろ」 俺は部屋から出て、携帯を取り出し、電話をかける。 「あっ、忙しい所ごめんな。申し訳ないんだが、蒼の体調が良くないから今日の結婚式欠席させてもらえるか?今度飯奢るからさ。突然で本当に申し訳ない。それじゃまたな」 部屋から蒼がこっちに顔だけを覗かせている。 「結婚式は二人して欠席。今日は思う存分楽しませてもらうぜ?」 そう言いながら蒼に近づき、腰を抱くと、噛みつくような深いキスをした。

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