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第35話

side一縷 あれから数か月が経った。 蒼は特に体調とかの変化もなく、毎日過ごしていた。 (発情期が来てからのセックスは確実に妊娠するはずだったけど、やっぱり怖くて薬内服していたんだろうか…?) 蒼の事を疑うわけではないけど、あまりに以前と変わらない毎日だったので、つい疑念を抱いてしまった。 しかし、そんな疑念も忘れるくらい平穏な毎日で、妊娠の事を完全に忘れていた。 そんなある日の朝、蒼が消えた。 大体いつも先に起きているのは蒼だ。 毎日温かい朝ご飯を作ってくれる。 ところが、今日はキッチンに蒼の姿が見えない。 洗濯でもしているのかと思い、洗濯機を設置している脱衣所に行くが、いない。 干しているのかと思い、ベランダに行ってみるが、やはりいない。 一人で買い物に出かける事は今はないけど、確認の為に玄関に行き、蒼の靴を探すと、靴箱にちゃんと置かれたままになっていた。 (家のどこにもいない…どういうことだ…) さすがに途方に暮れた。 玄関からリビングに移動する時、ふと明かりが目に入った。 トイレだった。 中からガタガタと音が微かに聞こえる。 (トイレにいたんだな) やっと見つけられてほっとし、リビングで蒼が出てくるのを待った。 待ち始めて早数十分。 一向に蒼がトイレから出てくる気配がない。 心配になり、トイレのドアをノックする。 「あお、大丈夫か?」 中からガタガタと音がすると、中から蒼が出てきた。 真っ青な顔で。 「あお、大丈夫か?」 「………うん、大丈夫だよ」 「全然大丈夫そうに見えないんだけど…」 会話が成り立つ間もなく、蒼は再びトイレに戻って行った。 「オェェェェェェェェェェ」 明らかに吐いている。 トイレにそろそろとついて行くと、蒼が涙目で振り返っていた。 「いち、見ないで…」 「もしかして、ずっと吐いてたのか?」 「うん。気持ち悪くて目が覚めてそれからずっと…」 「ちなみに何時に起きた?」 「六時くらい?」 今は九時を回ったところだ。 単純に計算しても、三時間は吐き続けているということだ。 「落ち着いたら病院行こう?」 「うん」 そう言うや否や、再び吐き始めた。

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