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第36話
午後になって、ようやく落ち着いたようで、タクシーでかかりつけ病院へ急いだ。
Ω専門の総合診療科に受付して、まず諸検査を受ける。
思いの外、この検査が意外と時間を食う。
次は診察の順番を待つ。
数十分後、ようやく順番が来て、診察室に入る。
諸検査の結果を聞く。
『おめでとうございます。ご懐妊されてますよ』
「「えっ!?」」
二人でハモってしまった。
『今は三か月入ったくらいですね。ご出産されますか?』
「はい。もちろんです」
蒼が食い気味に答えた。
俺はただ付き添っているだけだった。
色々な話を蒼と先生でしていた。
全ての診療が終わり、会計を終え、タクシーで帰宅する。
家に着いて、蒼が玄関で待ち尽くしていた。
「どうした?あお」
「いちは、本当によかった?」
「どういう意味?」
「子供できたけど、産んでいい?」
「もちろんだよ。あおはやっぱり怖い?」
「うん。怖い…」
玄関で話すには話が長くなりそうだったので、靴を脱がしてリビングに移動する。
ソファーに座り、ノンカフェインのお茶を用意し、話し合う準備を整える。
意を決した蒼が話し始めた。
セックスの時は覚悟できたけど、いざできてしまって、トイレで吐いている時、どんどん恐怖が膨らんでしまったこと。
先生から妊娠していることを聞かされて、ホッとしている自分とすぐにでも堕ろしてしまいたい衝動に駆られる自分がいたこと。
全然覚悟ができていない自分に嫌悪していること。
そもそも俺が本当に蒼との子供を欲しがっているのか不安なこと。
いろんな感情が膨れ上がりすぎて、途中から泣きながら蒼は話していた。
そんな蒼の肩を俺はずっと抱いていた。
話し終えると、蒼は俺にしがみついてきた。
「本当にいいのかな?こんな僕だけど、父親になっていいのかな?大丈夫かな?」
相当精神的に参っているようだった。
ちゃんと答えないといけないと思い、下を向いている蒼の頬を手で挟んで無理矢理目を合わせた。
「あおが産んでくれなきゃ、俺は産む事はできない。俺はあおとの子供だから欲しかったんだ。あお以外の奴との子供はいらない。あおがまだ父親になりたくないなら堕ろしてもいいよ。それを俺が咎める事は絶対にない。あおが産んでもいいって思える時が来たら、また作ればいい。それまで俺、待ってるから」
蒼の目を見て、真摯に答えた。
蒼は大粒の涙をボロボロと零しながら、ちゃんと話を聞いてくれた。
「いちは、この子のパパになってくれる?」
「もちろん。この子は俺とあおに会うためにあおのお腹に来てくれたんだ」
「こんな僕でもパパになれるかな?いちみたいなしっかりしたパパじゃないけどいいかな?」
「あおが挫けそうな時は俺が支えるから」
「本当に?」
「実際今挫けてるだろ?」
「そうだね。ふふっ。ありがとう。なんだか少し気分が楽になった気がするよ」
「きっとマタニティーブルーって奴だったんだよ」
「男にもそういうのあるのかな?」
「実際今のあおはマタニティーだろ?」
「…そうだね。ありがとう、いち」
蒼のブルーな気持ちは晴れたようだった。
蒼が覚悟ができてないのは前から分かっていたこと。
今回のような事がこれからきっと何回も起こるだろう。
でも、その度に俺が蒼を支えればいいだけの話だ。
それだけの男になると決めたのだから。
蒼とお腹の子は俺が命を懸けて守り抜くと心に誓った。
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