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第37話

side蒼 一縷と久々のセックスをしてから数か月。 あの日確実に発情期は来ていて、確かに発情していた。 そのフェロモンに一縷も中てられて二人で獣みたいなセックスをした。 はっきりとした記憶はないけれど…。 それなのに体調の変化がない。 妊娠したらそれなりに体調に変化があるとは知っている。 女性みたいに月経とかあれば、分かりやすいのかもしれないけど、男の場合の妊娠では、体調の変化以外妊娠の兆候がよく分からないのが現実だ。 事実、今の僕がその通りなのだから。 薬は内服しなかったけど、もしかしたらうまく受精しなかっただけかもしれない。 そう思うことにして、いつもと変わらない毎日を過ごしていた。 そんなある日の早朝、あまりの気持ち悪さで目が覚めた。 急いでトイレに駆け込むと、途端に吐いた。 今までこんなことなくて、何がどうしたのだろうといろいろ考えを巡らせていた。 昨夜、何か悪い物でも食べたかな? いや、昨日は魚の煮付けを味がしみこむように何時間も火にかけていたから悪いはずはない。 何かストレスを抱えるようなことをした? いや、最近は仕事らしい仕事は舞い込んできていないから違うはず。 それなら、どうして…? 思い当たったのは一つしかなかった。 妊娠。 それしかなかった。 悪阻というやつ。 こんなに気持ち悪いものなの? 世の中の女性やΩの男性はこれを耐えているの? 最早尊敬しかなかった。 考えながらも、ずっと吐いた。 昨夜の夕食以降何も食べていないから、出てくるのは胃液のみ。 正直、かなり辛い。 吐ける物があれば、いくらか体的には楽なのに、吐ける物がないから無理矢理吐こうとしてしまって、体に負担がかかる。 ずっと吐いてばかりで、さすがに辛くなってきて、水分補給したくてトイレから離れようと試みたものの、すぐに吐き気が襲ってきてしまい、トイレから離れることができなくなってしまった。 トイレに籠ってどれくらい時間が経っただろうか。 一縷が起きたようだ。 廊下をペタペタと足音が聞こえる。 声を掛けたかったけど、吐いている姿を一縷に見られたくなかった。 悶々としていると、今までで強烈な吐き気が襲ってきて、便座に突っ伏して吐いた。 その際、少し物音が立ってしまい、一縷にトイレにいることがバレてしまった。 声を掛けられるかと思ったけど、一縷は声を掛けずにリビングに行ってくれた。 一縷にバレてから更に時間が経ち、もう自分で動く限界を超えてしまった。 そんな時一縷が一向にトイレから出てこない僕を心配して見に来てくれた。 「あお、大丈夫か?」 嬉しいやら、見られたくないやらで、気持ちの葛藤があったが、これ以上一縷に心配をかけさせるわけにはいかなかった。 動かない体に鞭を打ってトイレから出た。 「あお、大丈夫か?」 「………うん、大丈夫だよ」 「全然大丈夫そうに見えないんだけど…」 そんな会話の束の間、再び吐き気が襲ってきて、トイレに逆戻った。 「オェェェェェェェェェェ」 吐いてるの聞かれてしまった。 もう消えてしまいたかった。 こんな格好悪い僕を一縷に見られたくなかった。 胃の中は空っぽで吐く物がないのに無理矢理吐くから目からは生理的な涙が溢れてきていた。 後ろを振り返ると、一縷が心配して見に来ているのは気配で分かった。 「いち、見ないで…」 「もしかして、ずっと吐いてたのか?」 「うん。気持ち悪くて目が覚めてそれからずっと…」 「ちなみに何時に起きた?」 「六時くらい?」 確か起きた時に目覚ましが鳴った少し後だったから、多分それくらいのはず。 「落ち着いたら病院行こう?」 「うん」 それからすぐ僕は吐き始めた。

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