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第45話

side蒼 病院に着いて、検査をして、結果を待つ。 診察室に入り、担当医から結果を聞かされる。 即入院とのこと。 何となく入院になるだろうなとは思っていた。 朝よりずっと今の方がお腹のハリがどんどん強くなってきている。 一縷に連絡した時より体的には辛くなってきた。 受付で指定された病室に向かう。 Ωの入院には個室がもらえる。 一縷は初めて入るΩの病室に興味津々だ。 ちょっとしたホテル以上の設備が備え付けられている。 僕も最初は一縷と同じ反応だった。 僕は慣れた感じで荷物を解く。 その間も一縷は物珍しいみたいで、あちこち見て回っている。 目が少年の頃に戻ったみたい。 少しかわいい。 だけど、もうすぐ父親になるんだから、少しは落ち着いてもらいたかった。 「ちょっと、いち。これ、そっちに置いて」 一縷の意識を奪った病室の内装に嫉妬した。 我ながらあさましい。 こんなんじゃもうすぐ生まれる我が子に笑われてしまう。 でも、一縷の意識は僕といっしょの時には僕に向いていてもらいたかった。 「少しは落ち着いてよ」 まだそわそわしていえる一縷に呆れてしまった。 ここまで典型的な父親像になるとは思ってもみなかった。 「ごめん…」 捨てられた子犬みたいにしょんぼりした一縷。 少しきつく言いすぎたかもしれない。 「いつ産まれるか心配で仕方ないんでしょ?」 もうすぐ父親になるって思ってくれているからこそ、落ち着かないんだよね。 今の僕も同じ気持ちだから、分かるよ。 「…うん。何かあった時、怖くて…」 「僕に何かあってもいちは大丈夫だから。ちゃんといちの元に戻ってくるから」 一縷を少しでも安心させたくて、思ったことをそのまま言った。 出産は命懸けっていうけど、怖いのは一緒だよって伝えたかった。 それを汲み取ってくれたのか、一縷は優しく抱きしめてくれた。 「俺があおを不安にさせるような弱気なこと言ってちゃダメだよな。ごめんな。もう大丈夫だから」 そう言う一縷は、さっきまでの捨てられた子犬から何か覚悟を決めたいつものかっこいい一縷に戻っていた。 それからしばらく、特に体に異変は感じられず一縷と二人で病室にいた。 夕方になって、少しお腹が痛くなる回数が増えてきた。 どうやら陣痛の間隔が短くなってきたようだった。 助産師さんからは短くなってきたら、何分間隔かだいたいでいいから計るようにと言われていたので、一縷に頼んで計ってもらった。 さすがに僕がお腹の痛みに意識をもっていかれて、時間を見ている余裕はなかった。 そのうち、どんどんお腹の痛みが強くなってきた。 あまりの痛さに涙が零れた。 「いちぃ…助けてぇ…痛い…っ!!!」 こんな僕を見せるのは初めてだと思う。 どんな時でも一縷に弱い所を見せるのを嫌ってきたから。 それなのに、今は痛い、痛いと、泣きながら一縷に訴えかけている。 それだけ余裕がない証拠。 こんな痛みを感じて僕を産んでくれたと思うと、母には頭が上がらない。 尊敬の念すらある。 全部終わったら母に会いに行きたくなった。 ベッドに横になり、丸まって呻く僕を見て、一縷まで泣き出してしまった。 まるで、誘拐事件の時のように二人で泣き出した。 いい大人なのに…。 傍からみたらかなりシュールな絵面だよね。 そんなシュールな絵面でも一縷は僕の腰を撫でていてくれた。 おかげで痛みが和らぎ、少し楽な気持ちになれた。

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