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第3話
「お、白夜か?久しぶりー!」
「久しぶり、九条君」
やはり彼は気がきく。俺たちは高校では全くといっていいほど会話したことがない。中心的でスポットライトを当たる九条と、指示をただこなして極力目立たないようにしていた俺。背反対の俺たちが仲が良いわけない。
けどこの場の雰囲気が壊れないよう、声をかけてくれるのだ。少しだけ胸が痛むが、仕方ない。
「白夜ー、お前も飲むだろ?」
「うん。タクシーできたから大丈夫」
「よっしゃ!そんじゃ生二つ!」
いつの間にか人は次々に集まり、三年二組ほぼ全員が来ていた。懐かしい人たちに囲まれて、頬が緩む。俺のクラスは比較的大人しく、問題のないクラスだった。
お酒も進んで、話も盛り上がって。俺はそれを眺めているだけ。会話に参加しようとは思わない。絡まれたら面倒だし、ぽろっと小説家をしていることを溢したくないのだ。
「白夜、飲んでるか?」
「……………九条君」
声をかけてきたのは九条だった。ほんのり頬が赤く、酔っていることがわかる。彼はどかっと隣に腰を下ろした。
「いやー、みんな元気。ついてけないよ」
「はは、九条君も十分元気だと思うよ」
「そうか?俺は白夜みたいにゆっくり飲みたい派なんだよな」
なんて言って、隣でそのままビールを飲む。あの九条が大人しく?いつも活発で、自分から行動していた彼が?高校を卒業してから約5年。その間に人格は変わってしまうものなのだろうか。
それとも…………。
「何、なにかあったの?」
「……………え?」
「わ、ちょ!」
九条が、驚いて持っていた空のジョッキを落とす。慌ててそれ床に落ちる前に受け止めた。ジョッキを机に戻して、新しいビールを追加する。九条はまだ口を開けたままだった。
この動揺からみて、何かあったのは確実だろう。けど俺はあえて聞かない。話したければ自分から話すと思ったから。
「…………白夜ってエスパー?」
「は?そんなわけないでしょ」
「じゃあ何で…………」
「はいはい、それは置いといてビール飲も。嫌なことは飲んで忘れる。わかった?」
「お、おう…………」
無理矢理追加のビールを九条に持たせた。二人で乾杯して、一気に飲む。喉を冷たいビールが通るのがわかった。口についた泡を手の甲で拭う。
九条はそれを見て、少しだけ笑った。そして同じように一気に飲み干す。それから俺らの間に会話はなかった。ぼんやりと飲み会の様子を眺めて、時々飲んで。それでよかった。
「……………ん?」
九条がいきなり顔をしかめる。いや、しかめるというよりかは、何かに反応したみたいだ。
「どうかしたのか?」
「いや…………なんか白夜からいい匂いがする」
「…………酔っぱらいめ」
顔を近づけて匂いを嗅いできたので、赤い頬をぐいっと押した。結構強く。きっと俺も酔っぱらっているのだろう。
少しだけ、体が熱い。
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