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第4話
夜の九時を回り、飲み会もお開きとなった。自分の分の料金を払って、タクシーを捕まえる。やっぱり俺は酔ってるな。ふらふらしながらタクシーに乗り込んだ。
「あれ、さっきのお客さん。奇遇ですね」
「あ、どうも」
「はは、飲みましたねー。顔が真っ赤ですよ」
偶然にも先程乗ったタクシーだった。自宅近くまで運転してもらい、タクシーを降りる。
「お客さん、手ぶらですけど」
「ん?ああ、大丈夫。タクシーの中に忘れ物はしてないよ」
頭を傾げる運転手さんにお金を払って、おぼつかない足取りで自宅であるマンションの階段を上った。鍵をなんとか開けて、玄関に倒れこむ。
気持ち悪い。久しぶりに飲み過ぎたかな。玄関の鍵を閉めて、リビングへ。ソファーに横になって目を閉じる。あ、スーツのままだ。まあいっか。
「……………はぁ、っ」
駄目だ、体が熱い。熱くて怠くて気持ち悪い。これは風邪か?呼吸が荒くなる。風邪ってこんなにえらかったっけ。
ふと感じる、パンツの湿り気。
慌ててパンツの中に手を突っ込んでみれば、指にまとわりつく液体。さーっと血の気が引いた。これ、何かヤバイ病気かな。恐る恐る指を見てみる。
………よかった、血じゃない。ほっとしたのも束の間、次の不安が襲ってきた。原因不明の病気だったらどうしよう。明日絶対に病院にいかないと。
その時、スマホの着信音が鳴った。スーツのポケットから出して画面をみる。九条からだ。震える指で通話ボタンを押した。
「あ、白夜?お前パソコン忘れて…………」
「っ、九条君………たす、けて……………」
「…………え?」
「な、なんか体変………ぁ、どうしようっ」
「ちょ、え?家どこ?」
「っ、△△マンションの、■■号室…………」
「わかった。いくから動くなよ!?」
プツッと切られる通話。ツーツーという電子音だけが空しく部屋に響いた。手が震えてスマホが落ちる。熱い、熱くて堪らない。スーツの上着を脱ぐ。
謎の液体はいまだに股を濡らし続けていた。怖くて、熱くて、気持ち悪くて。自然に涙が出てきた。息も上がって肩が上下に動く。本当にヤバイやつかも…………。
どれくらい経ったかわからない。けどインターホンが鳴った。扉が激しくノックされ、外から声が聞こえる。
「白夜?大丈夫か!?」
重い体を引きずって、玄関まで這っていく。なんとか手を伸ばして鍵を開ければ、勢いよく扉が開かれた。
「白夜!……………っ!?」
「…………っ、ん!」
思わず両手で鼻を押さえる。腰にくる、甘ったるい匂い。背筋に何かが走り抜けた。くらっと目眩がして、倒れそうになる。扉を開けた瞬間、ぶわっと広がった匂いに刺激されているみたいだ。
それは九条も同じようで。鼻を押さえて扉を壊れるかと思うくらい速く閉める。内側から鍵とチェーンロックまでかけて。
「………はぁ、九条、助けて……………」
「くっ…………白夜ってΩなのか?」
Ω?誰が?朦朧とした意識の中で考える。俺がΩ?そんなわけない。俺はβだ。けどΩだとしたら…………。尻の液体の説明がつく。体が熱い理由も、怠い理由も。
Ωの発情期。
男のΩも発情期になれば妊娠できる。そのために発情期になると体が準備を始めるのだ。αを受け入れる準備を。
全て辻褄があう。九条が飲み会で"いい匂いがする"と言ったのも、俺がΩだったから。俺が俺が…………。
俺がΩだったから。
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