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第7話
「…………美味しい」
「そりゃどうも」
目玉焼きと、キャベツとツナ缶をマヨネーズで炒めたもの。それを焼いた食パンの上に乗せて食べる。思ったよりも美味しかった。
食べおわれば、さっさとベッドの中に連行される。九条はお皿を洗ってくれた。また俺が発情した時のために水と、タオルと、念のためにゴムを用意してくれる。その間、恥ずかしがることもなかった。なんだか慣れてるな…………。
「ちょっと出掛けてくる。大人しくしてろよ」
「……………」
「返事は?」
「ハイ」
笑顔の圧力に思わず返事をする。九条はため息をついて玄関を開けた。遠退いていくその背中を見つめる。パタンと扉が閉まる音が大きく響いた。
俺一人になった部屋。こんなにのも静かだったっけ。しばらく動けないでいた。なんだろう、何かが足りない。不安で堪らなくなる。
「…………小説、書かなきゃ」
やっとの思いで立ち上がって、昨日九条が届けてくれた、玄関に放置されたままのパソコンを取りに行く。ちらりと閉ざされた扉を見た。俺は一体何を期待しているんだろう。
そんな自分に呆れながらベッドに戻る。上半身だけ起こして、パソコンを開いた。保存したファイルをクリックする。そして文字を打っていった。
"「あんたなんか、大嫌いだ」
言ってしまってからはっと気づく。少女の顔は苦しみに歪んでいった。また相手を傷つけてしまう恐怖に怯えたのだ。少年はそんな彼女を優しく抱き締める。
「僕は嫌いじゃないよ」
そっと語りかけるように呟き、抱き締める腕に力を込めた。
「大丈夫。ちゃんとわかってるから。何があっても側にいるから安心してよ」
伝わる温もりが、少女の冷たい心を溶かしていく。今まで堪えてきた涙が一気に溢れだした。涙で顔がぐじゃぐじゃになっても、服が濡れても少年は少女を離さなかった。ずっと寄り添い続けた"
そこでふと手を止める。手の甲に涙が溢れ落ちた。何で泣いてるんだろう。何で、何で。訳のわからない涙に戸惑う一方、本当は何故泣いているのかわかってる気がした。ただ気付きたくないだけで。
寂しい。早く九条に帰ってきてほしい。誰でもいい、側にいてほしい。孤独はこんなにも辛いものなのか。小説の少女のように、黙って抱き締められていたかった。
その時、扉が開く音がする。慌てて顔をあげて涙を拭うものの、目の腫れは隠せない。
「ただいまー………って、どうした!?」
「九条…………」
九条の顔を見ただけで、心から安心する。何かが込み上げてきて、また涙が溢れた。
「うっ…………」
「あー泣くな泣くな。ちょっと待ってろ。ほらタオル。涙拭いて」
受け取ったタオルで顔を拭く。それでも止まらなくて。俺は泣くことしかできなかった。幼い子供に戻ったように。その間、九条は落ち着かせるように背中をさすってくれた。
けど抱き締めてはくれなかった。
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