9 / 11
第9話
薬を飲んだ俺は出掛ける支度をした。マスクをつけて、一応厚着して。スマホと財布を持って閉ざされた扉を開けた。しっかりと鍵をかける。
そしてスマホでネットを開き、とあるサイトを開く。タクシー会社のサイトだ。ここからタクシーを予約したり、呼び出すことができる。
俺はΩが運転手のタクシーを選択した。ほどなくしてタクシーがやって来る。
「Ωの市立病院までお願いします」
市にはΩ専用の病院があるのだ。Ωの検査も、妊娠出産も、全てを診てくれる。唯一発情期中のΩも診てくれるのだ。ほかの病院はΩが立ち入り禁止のところさえある。
医者にαが多いのが主な理由だろう。何か間違いがあってからでは遅いから。社会においてΩはかなり低い位置にいる。
「着きましたよ」
「ありがとうございます」
「お互いに大変ですね」
「…………ええ、本当に」
タクシーを降りて、病院に入る。カウンターで受付を済ませて、待合室の椅子に座った。俺と同じように発情して辛そうな人、駆け回る子供をなだめる人、膨らんだお腹をさする人。いろんな人がいる。
大抵の人は女性だった。その中で俺と同じ男性の人を見つける。ばちっと視線が合った。背が低くて、猫のような大きな目。
「七瀬様、七瀬拓磨様。二番診察室へどうぞ」
「あ、はい」
七瀬と呼ばれた男性は立ち上がって、診察室へ入っていく。とても珍しそうに女性陣から見られていた。男のΩは滅多に病院に来ない。自分がΩだと知られるのが嫌だから。
「白夜様、白夜蓮様。五番診察室へどうぞ」
案外早く呼ばれた。診察室の扉を開ける。そこには白衣を着た年老いた医者がいた。
「今日はどのような内容で?」
「えっと、昨日初めて発情期が来てですね。ずっとβだと思ってたんですが………」
「それじゃあ血液検査しましょうか」
笑顔で注射器を取り出すお医者さん。すーっと血の気が引いた。注射は嫌いだ。
「ちょっとちくっとしますよー」
「ちょっと?大分痛いですよね?」
「はいじっとして」
針が皮膚の下に入って、血を吸いとられる。この血が抜かれる時が一番痛い。
「はい終わり。結果が出るまで20分くらいかかるから、外で待っててね」
「…………はい」
沈んだ気持ちで診察室を出た。そそのまま待合室を通って廊下の自販機へ。缶コーヒーを買ってその場で蓋を開けた。
「…………あ、さっきの」
声がして振り返ると、さっきのΩの男性がいた。たださっきと違って点滴をしている。
「確か、七瀬さん…………」
「七瀬でいいよ。えっと」
「白夜です」
同じ男性Ωというわけで、気になる。見つめあって微妙な雰囲気が流れた。
ともだちにシェアしよう!