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第10話
「七瀬はΩ、なんだよね」
「ああ」
二人で並んで待合室のソファーに腰をかける。周りの視線が痛いが気にしない。コーヒーを飲みながら特に視線を合わせることなく、世間話みたいなノリで会話をしていた。
「初めての発情期っていつ?」
「12の頃。部活中で大変だったよ。危うくαの同級生に食われそうになった。白夜は?」
「…………昨日」
「は?昨日?」
「うん。だから今血液検査中」
「ふーん。てことは今は薬飲んでるの?」
「市販のだけど」
そこで七瀬が俺の顔を覗きこんだ。大きな瞳に俺の顔が映り込んでいる。それは何かを見透かすような、見通すような目をしていた。観察されている気がした。
どうすればいいのかわからず、コーヒーを一口飲む。ほろ苦い味が口いっぱいに広がった。不意に七瀬が言う。
「…………知ってる?発情期のΩって目が蕩けてるんだよね」
「俺のも蕩けてるか?」
「うん。綺麗」
綺麗、か。よくわからない七瀬の価値観に戸惑いを持った。彼にはΩの目が宝石のように見えるのだろうか。これ以上見られるのが嫌で、そっと目を閉じた。
「白夜様、白夜蓮様」
「あ、はい」
「ちょっと待って」
呼ばれたので立ち上がろうとすると、七瀬に腕を掴まれた。彼は何かメモに走り書きを残す。それを俺のポケットに突っ込んだ。
「それメールアドレス。Ω同士仲良くしよ」
「ありがとう」
診察室へ向かう俺を七瀬はずっと見て、手を振っていた。まるで子供のように勢いよく。掴み所がない不思議な男だ。
診察室の扉を開ければ広がる、薬品の匂い。うっと鼻を詰まらせた。
「血液検査の結果、やっぱりΩですね。発情期用の薬を出しておきます」
「こんなキツい匂いなんですか?」
「そうですね。まあ、薬が効くかどうかは個人差がありますので。それと早いところ番を見つけるのをオススメします。番がいれば他のαを惹き付けることもありません。もちろん、発情期したあなたにαが惹き付けられることも。
αも番ができれば、他のΩの発情に煽られることもありません。番は本能で結ばれた強い関係ですから。それまでは項を噛まれないように首輪をしておくことですね」
番がいればαは他のΩの発情に煽られることはない?なら何で九条はあんなに…………。考えるのはやめよう。きっと何か事情があるんだ。九条は嘘なんてつかない。
そう自分に言い聞かせながら病院を出た。
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