300 / 357
堕ちゆく月5※
「……いや。まだ疲れた顔をしている。もう少し休ませてやってくれ」
「ふふ……時間稼ぎのつもりですか?それとも、雅紀を抱くのが怖い?」
貴弘は、雅紀から瀧田に視線を戻し、ギロっと睨めつけた。
「……どういう意味だ。それは?」
瀧田は微笑みながら、貴弘にしなだれ掛かり
「本当は気づいているのでしょう?貴弘。雅紀の心が何処にあるのか。だからこないだの時も、頑なに雅紀を抱くのを拒んでいたのですよね」
瀧田の指摘に、貴弘は嫌そうに顔を歪めた。
「総、おまえが何を言いたいのか分からないな。抱かなかったのは浮気の罰だと言ったはずだ」
貴弘に振り払われて、瀧田は含み笑いをもらしながら
「また現実逃避?ま、いいでしょう。今夜はしっかり抱いてもらいますよ」
瀧田はベッドに歩み寄ると、雅紀の手に革の拘束具をはめた。足首にもはめて、手足をそれぞれ鎖で繋ぐ。両脚を開かされ手首に繋がれた体勢に、雅紀は小さく呻いて身を捩る。見下ろす貴弘の前で、長い睫毛がふるふると揺れて、やがて瞼が開いていく。
「お目覚めの時間ですよ。雅紀。君の大好きな恋人が会いに来てくれましたからね」
雅紀はぼんやりと瀧田の方を見てから、貴弘に気づいてはっと目を見開いた。ぽやんとしていた顔が一気に引き攣る。
「……たか……ひろ……さん……」
「待たせたな、雅紀。私が来たからもう心配は要らない。おまえを愛してやれるのは私だけだ」
穏やかに微笑みながら、上着を脱ぎネクタイを外す貴弘に、雅紀は強ばった表情で首を横に振った。
「貴弘さん、待って……っ俺は……俺、貴方に話したいことが…」
貴弘はシャツのボタンを外して前をはだけると、ゆっくりとベッドの上にあがった。雅紀は身を捩りながら必死に後ずさり
「…っ待って、貴弘さ…っ」
「話は後だ。まずはおまえを抱いてやる。おまえが本当は誰のものなのか、私がしっかりと分からせてやろうな」
もぞもぞと後退しようとする雅紀を捕まえて覆いかぶさると、まだ何か言いかけている口を唇で塞いだ。雅紀は息を飲み、必死に顔をそむけてキスから逃れようともがく。貴弘は構わず雅紀の顔を手で押さえつけると、拒み引き結んだ唇を強引に割り開いた。
「ううっ……んむ……っんっんや……っんう」
手を滑らせてナイトドレスの胸元をまさぐり、隙間から手を忍び込ませる。探り当てた胸の尖りを指で摘み、きゅっと引き出して指先で嬲りながら、逃げ惑う舌を追いかけて、自分の舌を絡ませ強く吸い上げた。
雅紀は首を振りながら、手首と足首の鎖をがちゃがちゃと鳴らして抗った。
ドアが開き、訪問者の物音に気づいた大迫が顔をのぞかせた。瀧田はちらっとそれを一瞥してから、興奮に煌めく目を雅紀の方に戻す。
気まぐれな雇い主の興味は、もう完全にあの2人に移ってしまったらしい。大迫は首を竦めて壁に寄りかかり、傍観者を決め込んだ。
手を使って貴弘の行為を拒もうとすると、鎖に引き摺られて両足が開く。清楚な白のナイトドレスの下は、何も身につけていない。しどけなく脚を開いた誘うような姿を、3人の前にさらけ出すことになった。
「んぅっやぁっやめっ…」
必死にキスから逃れて抗議する声は、また塞がれてくぐもった悲鳴に変わる。瀧田はベッドの上にあがり、大きく開いた雅紀の脚の間に手を伸ばす。窄まりを指でつつかれて、雅紀は死に物狂いで身を捩った。
「手を出すな。こいつを抱くのは私だっ」
瀧田の悪戯に気づいた貴弘が、怒気のこもった声で瀧田に抗議する。
「やめてったかひろさ……っおねが…っ」
「随分手こずっているじゃないですか。少し大人しくなるように、ここに薬を挿れてあげますよ」
「総っ、余計なことはするなっ。薬など必要ないっ」
貴弘が追い払おうとするより先に、瀧田はすばやく座薬タイプの薬を雅紀の小さな穴に押し込んだ。
「……っんやぁっあっいやっっ!」
雅紀は腰を捩らせ、押し込まれた瀧田の指を外させようともがくが、瀧田は更に奥まで薬を押し込むと、指の代わりに細身のバイブを突き入れて、薬が抜け落ちないように蓋をした。
「あうっあ゛ーーっ」
スイッチを入れられ、バイブが中で細かく振動する。雅紀は泣き声をあげて仰け反った。
「総っ、いい加減にしろっ。余計なことを…っ」
「いいから貴方は黙って。雅紀を気持ちよくしてあげてください」
せせら笑う瀧田を睨みつけ、貴弘は雅紀に向き直った。押し込まれたバイブでかき回され、媚薬が溶けて効き始めたのだろう。雅紀の白い肌が少しずつピンクに染まっていく。
薬で言うことをきかせて抱くなど不本意極まりないが、狂気じみている今の瀧田を怒らせたら、雅紀に何をするか分からない。貴弘は怒りをぐっと堪えて、仰け反って差し出された形になった雅紀の乳首に、舌を這わせた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!