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傷と絆3

雅紀はほぉ……っとため息をついて、暁の胸にこてんと頭を預けた。 暁の言うように、犯人は貴弘じゃなかったらいいと思う。ストーカーされて怖い思いはしたが、付き合い始めの貴弘は決して悪い人ではなかった。こちらの気持ちを察してくれて、優しく気遣ってくれる、包容力のある大人の男性だった。 それに、なさぬ仲とはいえ、秋音にとっては、血の繋がったたった一人のお兄さんでもあるのだ。 暁は雅紀の柔らかい髪の毛を優しく撫でると 「実はさ、田澤さんに頼んであるんだ。貴弘じゃない場合の犯人の特定をな」 「え……」 顔をあげた雅紀に、暁は片目を瞑ってみせて 「もちろん、前からその点も調べてはくれてるんだけどな。貴弘がまったく無関係だったと想定して、改めて周辺の人物の洗い出しをしてもらってる。祖父さんの遺産が動機じゃない可能性も含めてな」 「そう、なんだ……」 「貴弘には、遺産や秋音との関係性の点で、動機が揃いすぎてる。だから一番怪しい人物ってなっちまったけどさ、まったく違う観点からも、犯人を探してみた方がいいと思うんだよな。あるいは貴弘の影に隠れて、今までスポットが当たってなかった人物とかさ」 「うん……そうですよね。俺も最初から貴弘さんだって思い込んでたけど、他に動機のある人がいるかも」 「そ。祖父さんの遺産相続の件もさ、それがいつ誰にどんな内容で知らされたかって状況によっては、秋音のお母さんの事故は、その後の事故とはまったく違う意味合いを持つかもしれねえ。その点に関しては、桐島大胡さんにも詳しく調べてもらってる」 雅紀は目を見開き、ぽかんと口を開けて暁に見とれた。 ……すご…っ。いつの間にそこまで手配していたんだろう……。 雅紀の唖然とした表情に、暁は頬をゆるませ 「おまえ、思ってることが顔に出過ぎだろ~。何そんな可愛い顔しちゃってんだよ」 にやける暁に、雅紀ははっと我に返って、開いていた口を慌てて閉じた。 「かっ可愛い顔とかしてないしっ」 「いーや。超可愛いぜ~。おまえって天然だよな。うー可愛い可愛い」 暁が調子に乗って、雅紀の髪の毛をくちゃくちゃにかき回す。雅紀は嫌そうに顔を歪めて首を振り 「やっ。もうっ。やめてって、暁さんっ。髪の毛ぐちゃぐちゃになるっ」 「出たっ。ツンデレっ。ツンなおまえも超可愛いぜ~」 「んもお~っ。暁さんのバカっっ」 雅紀は真っ赤な顔で、頬ずりしてくる暁の顔を引き剥がした。 「……えっ?……それじゃ、貴弘さんは…」 「ああ。総一のやつが話してしまったらしい」 沈痛な面持ちの大胡を、田澤は痛ましげに見つめた。 「そうですか……。知ってしまったんですね……。まさか瀧田くんからその話が漏れるとは…」 「秋音の所在が分かった時点で、貴弘にはいずれ、私から話をするつもりでいた。よりにもよって、あんな状況で聞かされてしまうとはな…」 大胡はあれから、急務の仕事をやり繰りしつつ、瀧田の弁護士の手配や警察の事情聴取で、拘置所と病院を行ったり来たりしている。心労も溜まってきているのだろう。一層顔色が悪い。 その上、依頼されていた調査で新事実が浮上した。かねてから懸念していたことが現実味を帯びてきている。 それは、今の大胡に告げるには、あまりにも残酷な報告だった。 「それで……貴弘さんは……何と?」 「いや。きちんと話をしようにも興奮してしまってな。医師に鎮静剤を投与してもらって、今は眠っている」 「そうですか……。大胡さん、貴弘さんが目を覚ますまで、少し横になられた方がいい。ちょっと顔色が悪すぎます。付き添いは私が代わりますから」 気遣う田澤に、大胡は顔をあげ 「田澤。私に何か報告があるんじゃないのか?おまえが直々に来たということは……例の件だな?」 「……大胡さん…」 今はこれ以上、大胡に追い討ちをかけたくない。だが、穏やかに見上げてくる大胡の眼差しには、有無を言わさぬ覚悟が表れていた。こちらの勝手な気遣いで、話を先延ばしにすることは、出来そうにない。 「話してくれないか?その報告を聞いたら、おまえの言う通り、少し横にならせてもらおう」 「……分かりました」 『貴弘が入院?!どういうこと?私にはそんな話、全然…』 『やはり君には知らされていないのか…』 『病院はどこです!貴弘は怪我をしているの?!』 『落ち着きなさい。命に別状はないそうだ。それより……ちょっと不味いことになっている。君はそのままご実家に居た方がいい』 『不味いこと……?……まさか…』 『詳しい説明は後でする。とにかく君は不用意に動かないでくれ。いいね?』

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