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傷と絆4※

「……ん…っぅ……んぁ…ぁ」 「おまえのここ、綺麗なピンクだぜ」 小さな耳朶を唇ではみはみしながら囁くと、雅紀はくぅんっと鳴いて身を捩る。暁の指先で弄ばれた乳首は、ぷくっと突き出していて、すでに桜色だ。 「んぁ……っやっだぁ……そこぉ…」 「嘘つけ。気持ちいいくせにさ」 暁は吐息を耳に吹きかけながら、爪先で乳首をつんつんつついた。ソファーに座る雅紀の脚が、もじもじと動く。 「ここだけじゃなくて、こっちも勃っちまったんだ?」 含み笑いの暁の言葉が、すごーく意地悪だ。雅紀は手を伸ばして、反応し始めた自分のものを、シャツの裾で隠した。 「こーら、隠すなよ。おまえの可愛い息子、見して」 「…っやっっ。だめっ」 「んじゃあ、こっちだ。美味そうなこれ、舐めさして」 耳まで真っ赤になってプルプルと首を振る。雅紀の手首を掴んで背もたれに押さえつけると、暁はべーっと舌を出して乳首に近づけた。 「……ぁ……あん…っ」 ぺろんと舐めてから、ちゅっと口に含む。雅紀は可愛く鳴いて、びくんと震えた。歯で軽く甘噛みすると、むず痒そうに身を捩る。雅紀の反応が素直で可愛くて、暁の息も荒くなる。 「気持ち、いっか?これ」 「やぁ……んやっ」 「やなんだ?んじゃ止めちゃうぞ?」 「…ぅ……やだ…」 暁は口を離して、下から雅紀の顔を覗き込み 「どうして欲しい?」 雅紀は潤んだ目で暁を睨みつけ 「…ぇ……もっと……舐めて…」 「ん。おりこうさん。んじゃ、いっぱい舐めてやるぜ」 暁は目を細めて笑うと、雅紀の胸に顔を埋めた。 ぴちゃぴちゃちゅぱちゅぱと、わざと音を立てて、乳首を吸い舐める。雅紀は暁の頭を必死に掴みしめ、震えながら掠れた喘ぎ声をあげた。舌で突起を掘り起こすように舐め上げながら、下に視線を向けると、シャツの隙間から雅紀のペニスが、完全に勃ちあがって顔をのぞかせている。 暁は手をそろそろと下に伸ばすと、驚かさないように、そっとそれを握った。 「んあうっ」 雅紀はびくんっと震えて仰け反った。乳首に吸い付いたまま、ゆっくりと手を動かすと、感じ入った表情で甘えた声を漏らした。 「……気持ち、いいか?」 「ああん……っぁあ…んぅ」 とろりと溢れ出てきた先走りを指に絡めて、じわりじわりと扱きあげる。 気持ちいいのだろう。雅紀の腰が自然と揺れ始めた。 病院から帰ってきて、雅紀を優しく抱き締め、キスをしながら身体に触れようとした。雅紀は急に泣きそうな顔になって、全身をぎゅっと強ばらせた。 あんな目に遭った後だ。だいたい、雅紀の性体験は、嫌悪や恐怖と背中合わせのものが多すぎる。また酷いトラウマを抱えてしまっていたら…と危惧していたことが、現実になりそうで怖かった。 セックスがない愛の形だってあるのだ。例え抱き合うことが出来なくなっても、自分の雅紀への気持ちに変わりはないと、胸を張って断言出来る。 でも、愛されることと幸福感が一致しなくなってしまったら、雅紀はまた思い詰め、行為に応えられない己を責めてしまうだろう。辛い思いばかりしてきた雅紀に、そんな哀しい重荷がまた増えてしまうのは、何としても避けたかった。 心と身体の強ばりをほぐすように、暁はゆっくりと少しずつ、雅紀の身体に触れた。怯えさせないように、嫌な記憶がよみがえってしまわないように、愛する者同士が触れ合うことの歓びと気持ちよさを、もう一度心に呼び起こすことが出来るように…。 最初は青ざめ緊張していた雅紀の表情が、だんだん柔らかくなっていった。 暁の戯れにうっすらと頬を染め、自然に笑みも零れるようになった。固く閉じていた蕾がふわりと綻んでいく度に、暁は内心安堵しながら、改めて雅紀の美しさに見惚れた。この綺麗な青年を、自分の腕に抱けることの幸せを、じんわりと噛み締めていた。 細心の注意を払いながらも、いつもと変わらぬ態度で接していた暁の努力が功を奏したのだろう。 雅紀は、自分の回りを囲っていた堅い鎧を脱ぐように、すっかり安心しきった様子で、暁の愛撫を受け入れてくれた。 もちろん、トラウマが全て払拭された訳ではない。嫌な記憶も完全に消えてしまうことはないだろう。焦ってはいけない。拭いきれない恐怖や不安は、ゆっくりと時間をかけて、少しずつ取り除いてやればいい。 ……なあ、秋音。おまえとの約束は必ず果たすぜ。だからもうしばらく俺に時間をくれ。大切な俺達の恋人の為に。俺達自身の新しい未来の為にもな。 田澤の声が途切れても、大胡はしばらく微動だにせず、黙り込んでいた。 病室から少し離れた場所にある、見舞客用の待合室は、他に人影もなく静まり返っている。

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