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傷と絆5※

田澤には、大胡にかけるべき言葉が見つからなかった。なるべく感情は抑えて、調べたあげた事実だけを淡々と報告したつもりだ。 やがて、大胡は疲れたように大きな溜息を吐き出し、顔をあげた。 「そうか……。そこまで調べるのは骨の要ることだったろう。手間をかけさせたな、田澤。ありがとう」 大胡の表情は固かったが、それほど動揺した様子は見られなかった。 「いえ。もっと早くにご報告出来なくて申し訳なかったです」 「そんなことはない。おまえは本当によくやってくれているよ。しかし……予想していた中でも最悪の結果だった。あれは、まだあの男と繋がっていたのか」 「はい……残念ながら。男の方はかなり巧妙に隠していたようですが」 「おまえに情報を寄こした男は、今は警察か」 「ええ。どうやら少し前から警察にマークされていたらしい。私と接触した直後に別件で引っ張られたようです」 「あの男の行方は?」 「まだ掴めてません。今、事務所の連中に全力で調べさせてます。男からの情報は警察に届け出ました。これで、取り調べ中の男がこちらの件についても自白すれば、警察も本腰を入れて再捜査に乗り出すでしょうが」 「そうなる前に、事態を察して雲隠れか、最悪国外逃亡の可能性もあるな。……分かった。私からも警察内部の知人に連絡を取ってみよう」 そう言って立ち上がり歩き出そうとする大胡に、田澤は慌てて追いすがり 「や、大胡さん。待ってください。貴方には今、休息が必要だ」 「分かっている。心配するな。2、3電話をかけたら少し休むよ。これからが正念場だ。肝心な時に倒れてしまっては、元も子もないからな」 気丈に微笑む大胡に、田澤はそっと目を伏せた。 「心中、お察しします」 「全て、身から出た錆だ。膿は一気に出し切ってしまった方がいいだろう。田澤、悪いがもう少し、おまえにも付き合ってもらうぞ」 「もちろんです。今の自分が在るのは貴方のお陰だ。どこまでもお付き合いしますよ」 「ね、あき、らさ……んぅ……きてぇ……おれん中、はいって……」 切なげに身を捩りながら、雅紀が甘くねだる。恥じらいを纏いながら、揺らめくその瞳が愛おしい。 時間と愛情をたっぷりかけて、優しくほぐしていった雅紀の身体は、熱く火照って艶めきを増し、暁との交わりを待ち望んでいる。暁は雅紀の身体を抱き起こし、ソファーに浅く腰をおろした自分の上に跨らせると 「雅紀、おいで。自分で、挿れてみな。焦んなくて、いいぞ。ゆっくり…な」 「っうん……」 雅紀はこくんと頷くと、ちょっと緊張気味な表情になって、暁の勃ちあがったペニスの上に、そろそろと腰をおろしていった。 暁が、すごく自然に自分を気遣ってくれているのは分かっていた。 正直、瀧田に刺されそうになったことは衝撃的で、今でも油断するとその時のワンシーンがよみがえってきて、息が苦しくなる。元カレの時のようなトラウマになりかけているのが分かる。 だからこそ、暁ときちんと結ばれたかった。恐怖や嫌悪から逃げ出すのではなく、向き合って克服したい。 他人と壁を作り殻に閉じこもって、孤独に震えていた、過去の自分には戻りたくない。 暁は、自分に初めて、好きな人と愛を交わす歓びを教えてくれた人だ。前を向く勇気も、立ち向かう強さも、彼と一緒ならきっと持てる。 自分の怯えを感じ取って、焦れったいほどゆっくりとほぐしてくれた彼の、大きな愛情に応えたい。 雅紀はきゅっと唇を噛み締めると、暁の顔を見て、ぎこちなく微笑んだ。 「無理、すんなよ。怖いなら」 「ううん、大丈夫。俺……暁さんを、感じたい。暁さんも、俺を……感じて」 雅紀の言葉に暁は目を見開き、思わず腕を伸ばして頬を両手で包み込んだ。 「ばっか。んな可愛いこと、言うなって。でっかく、なっちまう、だろ」 雅紀は暁のものに手を添えると、自分の入口にグッと押し当てた。ローションまみれの下の口が、くちゅっと音をたてて、暁のものを咥えこむ。 「っんっくぅ……っん」 緊張にガチガチに強ばった身体が、暁のものを心ならずも拒む。雅紀が苦しげな顔をするのを見て、暁は慌てて雅紀の腰を掴んで引き上げた。 「こらっ、無理、すんなって」 腰を外させようとすると、雅紀は目に涙をにじませて、首を激しく横に振った。 「おねがっ、挿れ、……っんく……させて」 「怖いんだろっ?だめだ、そんな」 「ううんっへぃき……こわく、ないっ。だって、愛してるんだから……っ」 ぽろぽろ涙を零しながら、それでも腰を落とそうともがく。暁は堪らなくなって、雅紀の身体をぐいっと抱き寄せた。 「くっそ。なんでこう、愛しいんだろな、おまえってやつはっ。ばか…泣くなよ~。大好きだぜっ、雅紀っ。ほんっと大好きだっ」 「っ俺もっ大好きっ……」 しゃくりあげる雅紀を、力いっぱい抱き締める暁の目も、真っ赤になっていた。

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