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傷と絆6

「おまえさ。カレーが鼻に入っちまうぞ。飯食うの集中しろって~」 「んー……うん……」 雅紀はスプーンを手にしたまま、そわそわと落ち着かない。夕食のキーマカレーを作っている間も、型に入れたまま冷ましているシフォンケーキばかり気にして、気もそぞろだった。 夕食が終わったら、ケーキは型から出してやると言ってある。本当はそのまま冷蔵庫で一晩冷やした方が、しっとりして美味しいのだが、これ以上おあずけしていたら、雅紀の我慢も限界だろう。 「わかったわかった。それ、全部食ったら、型から出してやるからさ、とにかく急いで食え」 苦笑混じりにそう言うと、雅紀は皿をじとーっと見つめてから、顔をあげて悲しそうに暁を見た。 「……おい。なんで涙目だよ?」 「だって……。こんな大盛りじゃ、俺、食べきれないかも」 「んー。んじゃさ、3分の1は俺が食ってやるから残せ」 雅紀は嬉しそうに頷くと、せっせとスプーンで掬って食べ始めた。 「どうだ?美味いか?」 食べることは好きなのに、雅紀はけっこう偏食で少食だ。苦手な人参やセロリを細かく刻んで、特製スパイスで作ったキーマカレーを、最初はおっかなびっくり味見していた雅紀は、不思議そうに首を傾げて 「うん。やっぱり美味しい。俺、これならセロリとか人参、全然平気かも」 「だろ?しっかり食えよ~。でないとケーキはおあずけだかんな」 暁は雅紀の頭をわしわしすると、横に並んで座り、自分も食べ始めた。 結局あの後、暁は無理をしようとする雅紀を宥めて、いったん挿入を諦めさせた。雅紀はぐすぐすと泣きながら、しばらく抵抗してもがいていたが、優しくキスを繰り返し、愛を囁き続ける暁の腕の中で、やがてくったりと大人しくなった。 「ね。暁さん……」 「んー?なんだ?」 「カレー食べて、ケーキ食べたら、また……イチャラブしてくれる?」 スプーン片手におずおずと上目遣いで聞いてくる雅紀に、暁はにやりとして 「するぜ~もちろん。風呂入ってさ、全身くにゃくにゃになるまで愛してやっから、心配すんな」 「……くにゃくにゃ」 「そ。おまえのエロい身体、とろっとろに蕩かしてやるぜ」 雅紀はぽっと目元を染めて、ぷいっと目を逸らした。 「……なんかやだ、それ」 「なんでだよ。おまえがして欲しいって言ったんじゃん」 「だって……おやじくさい」 ぼそっと呟く雅紀の頭を、暁はゲンコツでぐりぐりした。 「お・ま・え・はー。ツンなのか、デレなのか、どっちかにしろ」 「痛っ。暁さん、それ痛いからっ」 暁は拳ぐりぐりを止めると、今度は雅紀の顔に、すりすりと頬擦りする。 「むー。なつくのもダメ。カレーが食べられないし」 「んな、つれないこと言うなよ~。せっかく秋音に時間たっぷりもらったんだぜ。起きてる間はおまえとベタベタしてたいのー、俺は」 「秋音さん、大丈夫?……まだ混乱中、なんですか?」 「ん。あいつは大丈夫だよ。俺がさ、しばらく表に出ていたいって、我が儘言ってるだけだ」 雅紀は暁をまじまじ見つめ、首を傾げた。 「えっと……。秋音さんと暁さん、話とか出来ちゃうんだ?」 「話っつーか、ま、意思の疎通は出来てる、かな。お互いにさ、抜けてた記憶も繋がったぜ」 「えっほんと?!じゃあ、暁さん、昔のこととか全部思い出したんだ?」 「そ。秋音だった子供の頃のことや、大学時代、おまえと初めて会った時のこともな」 そう言った途端、雅紀の顔がぽーっと赤くなった。 「うわぁ……。それは、思い出さなくていいし」 「初々しくて可愛かったよなぁ。まだ高校生だったおまえってさ」 にやにやと思い出し笑いしている暁に、雅紀は嫌そうに顔を顰め 「その顔……何か変なこと考えてる」 「ひっでーな。変なことじゃないぜ。可愛いおまえの制服姿をだな」 「やっぱ、変なことだしっ」 雅紀はのしかかってくる暁の顔を、ぐいーっと手で押し返した。 「っもうっ。カレー食べられないからっ。どけてっ」 暁はくすくす笑いながら、元の位置に戻って食事を再開した。雅紀は真っ赤な顔のまま、スプーンでカレーを掬って口に放り込む。しばらくは2人とも、黙って食べることに集中した。 「おーし。そこまででいいぜ。後は俺が食ってやるからさ」 「ご馳走様でした。すっごく美味しかったですっ」 雅紀は幸せそうにそう言って手を合わせると、期待でいっぱいの目で暁を見つめた。 ー子供かよ。 暁は内心突っ込みつつ 「待ってろ。残り食っちまうからな」 雅紀の期待に応えるべく、残りのカレーを急いで平らげた。

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