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傷と絆9
「だめ。今ちゅうしたら、暁さんそのままイチャラブ突入、でしょ」
「おい。なんでだよ。そのまんま突入でいいじゃん」
雅紀は情けない表情で、ふくれたお腹をさすり
「見てこのお腹。食べすぎでポッコリしちゃってる。もう少し、後じゃないと無理」
暁はくくくっと笑い出し、
「おまえってさ、自分がイケメンって自覚、ほんとに皆無なのな。ふくれた腹ぽんぽんするなって~」
暁の言葉に雅紀はぷーっと頬をふくらませた。
「俺、別にイケメンじゃないし……」
「その言葉をおまえが言うと、かなり嫌味だぜ。仙台の街中でも、カメラ構えてるおまえにさ、女子高生やOLがめっちゃ見とれてたんだぜ。おまえ、気づいてなかったんだ?」
雅紀はきょとんと目を丸くして
「うそ……。じゃ、俺、モテてた?」
「ああ。モテてたね。女の子の目がみ~んなハートマークだったもんな」
嬉しそうに頬を薄く染める雅紀に、暁は口を尖らせて
「なんだよ~そのにやけた顔。おまえさー、女子にモテて嬉しいんだ?」
雅紀は慌てて頬を両手で押さえ
「やっ。ニヤけてないしっ。でも、俺だって男だし、モテないよりモテる方が、やっぱ嬉しいでしょ」
暁は雅紀の顔を両手で挟んで、自分の方を向かせ
「だーめだ。おまえは俺にだけモテてりゃいいの」
雅紀は上目遣いに暁を見上げて、くすっと笑った。
「暁さん……やきもち?」
「おう。やきもちだな。あのな。俺は結構、独占欲強いみたいだぜ。特におまえに関しては、自分でもドン引きするくらい、めっちゃ心が狭いの」
そう言って暁は、雅紀の唇にキスを落とした。
「……んぅっ」
雅紀はうっとりとキスに応えて、暁の腕を両手で掴み締めた。
熱い吐息が重なり合う。雅紀の唇は柔らかくて甘い。舌を互いに絡め合い、蕩けるような甘い口付けを交わす。
冬と春の狭間に始まった2人の恋は、次々と襲いかかる試練の連続だった。
途切れそうになる細い運命の糸を、必死に手繰り寄せ繋ぎ留め、ようやくここまできた。
でもこれがゴールじゃない。ここから2人の新しい日々の始まりなのだ。
おそらくこれからも、乗り越えなければいけない試練は度々訪れる。
秋音に迫る命の危険はまだ解決していない。雅紀が抱えるトラウマもいつ表に出てくるか分からない。
それでも、伝え合う熱が、重なり合う心が、一緒ならきっと乗り越えていけると教えてくれる。
じっくりと味わって口を離すと、雅紀はぽやんとした目で暁を見つめた。
「風呂の湯ためてくるから、布団敷いといてくれるか?」
「ん……。わかった」
こくりと頷く雅紀に、リップ音をたててもう一度キスを落とすと、暁は立ち上がり風呂場に向かった。
「おまえに、確認しておきたいことがある」
大胡は貴弘の手をぎゅっと握った。
「……確認?」
「秋音のことだ」
貴弘の顔が強ばった。
「秋音が記憶を失っていたことを、おまえは知っていたのか?」
予想外の質問だったのだろう。貴弘は怪訝な表情で首を傾げ
「記憶を……?」
「そうだ。7年ほど前に、仙台からこちらに来てすぐ事故に遭ってな。車にはねられ崖下に転落しかけた。その時のショックで記憶を失っていたのだ」
貴弘は目を見開き
「事故で記憶を……?……そうか。だから早瀬暁なんて偽名を使っていたんですね」
「ああ。早瀬暁という名は、事故の時に秋音を助けてくれたご夫妻がつけてくれたものだ。記憶を失って身元が分からない秋音を、引き取って面倒をみてくださっていたそうだ」
「……そうだったんですか……。じゃあ、田澤の事務所に彼がいたのは…」
「全くの偶然だ。10年ほど前、早瀬夫妻の息子さんが失踪した時に、田澤がその行方を探す依頼を受けたのが縁でな、ご夫妻が秋音の仕事を探して欲しいと田澤に依頼して、事務所で雇うことになったらしい」
「……そんな嘘みたいな偶然があるんですね。父さんは早瀬暁が秋音だと、いつ気づいたんですか?」
「確信を持ったのは、総一のセカンドハウスで会った時だ」
貴弘は何かを思い出すように目を細めた。
「……総が、言ってました。秋音は、お祖父さんの若い頃に瓜二つだと」
貴弘の呟きに、大胡は深く頷き
「その通りだな。私も一目見て驚いたよ。息子の私より父に似ている」
その言葉に、貴弘は目を伏せた。大胡は息子の手をそっとさすり
「秋音が車の事故に遭ったのは、それが初めてではないのだ」
「……え……?」
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